正直、期待していなかった

 ホワイトデーに用意した飴細工を見て、カリファが随分と気合いが入っているわねと笑う。
 まぁ確かにチョコやマシュマロと色々と選択肢はあったのだが、たまたま立ち寄った先で見た琥珀色に輝く飴細工の花を見て、なんとなく彼女のことを思いだした。たった一輪のそれは、女性が飛びつくような高級菓子でもなければ、絢爛豪華なものでも無いように思う。それなのに彼女は「……花が好きだって、覚えていてくれたの?」とまるで宝物でも貰ったように瞳をとろりと蕩けさせて、それはもう嬉しそうに微笑むのだ。


 どうして彼女は、ここまで喜んでくれるのだろうか。


 飴細工の花で唇を隠すように寄せたアネッタは、期待を滲ませた真っ直ぐな眼差しを此方へと向ける。それがまたどうにも眩しくて、それを意識した瞬間、息がつまるような感覚と共にじわりと滲むような温かさを覚えた。
 嗚呼、これが彼女へ抱いた気持ちなのか。改めて意識したのはそれから数秒ほど経った後のことで、沈黙を返すわしに首を傾げたアネッタが「カク?」と不思議そうに声を掛ける。


「……ん、あぁ、……お前の言うことはなんだって覚えとるぞ」
「ふふ、健気ねえ」
「うん?……わはは…そうじゃぞ、わしはそこいらの者よりも健気で一途じゃ」

 機嫌の良いわしは、彼女の手首を掴むと、唇に寄せた飴細工を剥がして唇を寄せる。唐突な行動にアネッタは目を瞬かせていたが、触れた唇が離れた後には目元を和らげながら「あと、甘えん坊だ」と笑うと、離れる唇を追いかけるよう踵を浮かせて、一つ口付けを返した。

 その後、もう一度と強請ったわしは見事”甘えん坊”という称号を押し付けられてしまったのだが、まぁ、たまには甘えん坊になるのも、悪くはないかもしれない。