祝いをあなたに

「あ!今日ブルーノの誕生日じゃない!」

 溌剌とした声が賑やかな酒場に響き渡る。一同の視線はカウンター席に座る声の主に。一部、その視線に余計な事を言うなという睨みが混じっていた気がしなくも無いが、酔っ払いには通じない。「そうなのか?」尋ねるパウリーに、アネッタは酒でふわふわとした様子で「そうだよ~四月二十日はブルーノの誕生日だって、この間聞いたもん」と笑う。隣に座るカクはアネッタへと顔を寄せ「おい、余計なことを話すんじゃない」と諫めたが「誕生日ぐらい何のヒントにもならないよ」と言葉が返り、小さく息を落した。

「そうか、今日はブルーノの誕生日か。…ってことは、何かプレゼントは用意しているのか?」

 ルルが尋ねる。アネッタはその言葉に目をしぱしぱと瞬かせたあと、あはあはと笑って「忘れてたからなーんもない」と零す。なんてやつだ。教えてもらっておきながら用意もしていないだなんて。ただ、アネッタとしても、自分で言っておきながら、プレゼントがないのは寂しいだろうかなんて考えたのだろう。細身のビール瓶に唇を寄せると「でもプレゼントがないっていうのも寂しいよねぇ」と小さく呟いた。

「そりゃそうだろ、誕生日だって言っときながらプレゼントも無いのはよ」

 なぁ?とパウリー。

 その隣に座るルルも「まぁ確かに誕生日にはプレゼントだよな」と言い、さらにはその隣に座るタイルストンも「プレゼントは必須だろうなぁ!」とガハハと大きく笑った。

「だよねぇ……でもプレゼント買ってないし…うーん……あ、じゃあブルーノ!一杯奢るってのはどう?折角の誕生日なんだもん、一杯ぐらい付き合うと思ってさ」
「付き合わせてんじゃねーか」
「いいの!じゃないとブルーノは飲んでくれないでしょ?」
「まぁ、そりゃあ確かに。よし、じゃあみんなで乾杯だな!」

 確かに、目の前で提案を受けた店主ブルーノは戸惑っていたように思う。

 時折気前の良い客からお前もどうだと酒を受けることはあっても、此処まで一致団結して酒を進められたことはないからだ。よって、ブルーノは「いやぁ」と遠慮を向けたが、言い切る前にビール瓶を押し付けられていた。どうやら受け取るしかないらしい。ブルーノは小さく息を吐き出してそれを受け取ると、カウンター席に座るアネッタが立ち上がり、ビール瓶を掲げる。

「誕生日には~~、やっぱりお誕生日の歌も必要じゃない?」

 ああ、完全に酔っぱらっている。ただし、彼女が酔っぱらっているように、周りの船大工や、そのほかの客たちも同じように酔っぱらっているわけで、先の話に参加していなかった者たちも一体何の話だと耳を傾けると、そりゃあいい!と手を叩いて笑った。

「それじゃあ行くよー!せーのっ!」

 そうして酔っ払いたちは自由に歌う。可愛らしい誕生日の歌を。野太い声で。自由に歌いすぎて、音程はしっちゃかめっちゃかで、よく分からない合いの手も入っている。それに、男たちがみんなして肩を組んで姿なんてむさ苦しい光景でしかなかった筈なのに、その祝いの歌を一手に引き受けたブルーノは、珍しくもこそばゆくて仕方がないって顔をして頭を掻くと、「へへ……参ったね、こりゃあ」と店主の顔をして笑った。

 翌日。ブルーノから下らないことをするなと正座をさせられた上で、叱られたことは言うまでもない。