「はぁ……七夕って美味しいものが出るから好きだ……」
よその家庭とそこまで大差はないと思うが、養護施設での食事というのは、いわば給食のようなもので、配膳された料理はいつだって健康を考えられたものであった。だからこそ、ちらし寿司に七夕ゼリーと普段とは異なるメニューが出てくると、やはり気分が上がるもので、子供たちは「今日は豪華だ!」「すごい、ゼリーもある!」と声を弾ませていたし、普段は小食の者も箸が進んでいるように見えた。
そして、隣でも大事そうに一口ずつゆっくりと食べるアネッタが、幸せそうにつぶやく。まぁ確かに、茶碗蒸しにちらし寿司、お吸い物にからあげ、そして七夕ゼリーというのは普段よりもうんと豪華だ。だから彼女が喜ぶのも分かるのだが、なんとなくの思い付きで、彼女の好きなボイルエビを皿に移してやると「いいの…?!」と言わんばかりの顔が向けられる。そのきらきら具合といったらもう。
思わず笑えてしまって、それを誤魔化すように片手に持ったお吸い物をずずと啜ると、彼女はまた大事そうにエビを食べては、にこにこと笑っていた。
そうして食事を終えて片づけを行った後、ルッチやブルーノなどの最年長者を除いた子供たちは居間に集まっていた。居間の端には立派な笹が立て掛けられており、子どもたちは其処に願い事を書いた短冊を飾っては、お互いに何を書いたか見せ合って、この七夕というイベントを楽しんでいる。
「ねぇ、カクは何を書いたの?」
その片隅で、子どもたちを見守りがてら宿題に勤しむアネッタが、手を止めて尋ねた。
「うん?」
「短冊だよ、カクも書いたでしょ?」
「あぁ、まぁ書いたが……」
「何書いたの?」
「……、……お前が教えてくれたら別に構わんが」
名を聞くならばまずは己が名乗れという話で、カクは尋ねると彼女は「え゛」と一音漏らしたあと視線を落としたが、顔は熱を上げるように赤くなったのを見て、彼はしぱしぱと目を瞬かせた。
「い、いや、あの」
アネッタは露骨に動揺し、それを隠すように手を動かすが、ノートに書かれるのはへなちょこの絵ばかりで、誤魔化しになっていない。カクはそれを見てわざとらしくノートに指を這わせたあと、「………ほーう?気になるのう…どれ、見てくるか」と言って立ち上がるが、もちろんアネッタは黙っていない。彼女はその場にシャープペンシルを落として足にしがみついて「やだ!!!!みないで!!!!みないでいいから!!!!」とみっともなく必死に訴えるt、周りにいる子供たちは不思議そうにアネッタとカクを見つめていた。
結局、彼女は何を書いたかも、どこに飾ったかも教えてくれなかった。ただ、暫く経っての回収作業中、星に届きそうな一番上にかけられた短冊に書かれた願いは、彼女の筆跡によく似ていた。
今度はずっと、一緒に居れますように。そんな切実とも言える願い。それを見て、ああ、想いは同じなのだと妙に胸が熱くなったけれど、そんな願いを書いた短冊を捨てられずにこっそりと持ち帰ったことは、多分、言わない方がいいのかもしれない。