おれがおかしいのか?!(🐼🦒)

 なんでこのおれがこんなものを!
 ぎゃあぎゃあと喚く様子を横目に肉を捌く。皮を剥いで、肉の表面についた薄皮を剥いで。切れ味の良いナイフは途中でつっかえる事も無く、我ながら綺麗に解体出来ていると思うのだが近くで喚く男は随分と元気だ。解体を始めてもう暫く経つと言うのに、まだ元気にごねている。これには隣に立つカクも「煩い男じゃのう」と呆れた様子で、アネッタは切り分けた肉を見せながら言った。

「でも、これを焼いたら長官の好きなステーキですよう」
「おれが好きなのはビーフステーキだ!そんな何かもわからねぇ肉じゃねぇ!」
「やだなぁお尻が鶏になってるだけで一応牛ですよ、三分の二は牛ですもん」
「だああ!話の分からねェ奴だなテメェは!そんなのは牛じゃねぇって言ってんだよ!」
「わ、我儘だなぁ……」
「あぁ、我儘じゃぞ長官」
「我儘じゃねぇ!!」

 肉を指しながら怒鳴るスパンダム。彼の生い立ちや境遇金持ちである事を考えると、野営で肉を食べる経験はあまり無いのかもしれないが、いっそのこと楽しんでしまえば良いのに。アネッタは考えながら部位ごとに切り分けたものを前に、意見を集める。ルッチとフクロウは霜降りできめ細やかな肉質のサーロインで、程よい食感と濃厚な味が特徴の肩ロースがブルーノとクマドリとジャブラ。脂肪が少ないが柔らかく全体からたった数パーセントしか取れない希少部位はカリファ…と、あとは長官もこれにしておこうか。

 なんとなく、希少部位とか、そういうワードが好きそうだし。

 あとは全ての種類が良いと言う食べ盛りのカクには、全ての部位を少しずつ切り分けて用意するが、さてお尻部分の鶏肉はどうしたものか。ひとまず羽を捥いで、赤身から薄い桃色の肉に変わるあたりと削いでみる。それから味を確かめるために口の中に入れてみたが、淡泊な身である鶏肉と、濃厚に少し硬い肉質な赤身が合っているようには思えない。カクは驚き、わななくスパンダムをよそに、興味深そうにアネッタを見た。

「お、そこの部位はどうじゃ?肉が代わるあたりは特にうまいんじゃないか?」
「ううん……まずいことはないんだけど、なんか喧嘩してるような……どっちの美味しさも殺してるような…」
「ほー……うまいもの同士なのに合わさると微妙になるんじゃな」
「肉質が違いすぎるのかも」
「オイオイオイ、いや、それよりも、お前、いま、生で食っ……」

 むぐむぐと口を動かしたままのアネッタに、スパンダムは衝撃を受けたまま向けたままだった指を震わせる。こいつ、生肉を食いやがった。ゲテモノでも見るような目に、実際に出た言葉。アネッタは口を動かしたまま食べることをやめず、「肉食の人外に人間の常識を語られましても」と話したが、おれがおかしいのか?!とスパンダム。うるさいやっちゃなというカクの視線も冷たいもので、アネッタはどん引いているスパンダムに構わず、あらかじめ用意しておいた丸太二本に乗せた石板に肉を移した。

 じゅうじゅうと、ぎゃあぎゃあと。
 どんなに文句を言おうが喚こうが、体力を使えば腹が減る。だから石板で焼き始めた肉から彼の好物である香ばしい匂いがすれば喚きも小さくなるもので、彼は最後まで食べたくないだのなんだの言っていたステーキを頬張ると、「なんであんなナリで普通にうめぇんだよ…」と頭を垂らしていた。