お疲れ夢主ちゃんはサッチに愛される

 疲れた。兎に角疲れた。トラブル続きの残業続き。時刻はいまだ二十時を回っているわけでもないのに、疲労度が高い。これも残業続きのせいだろうか。仕事を終えて帰宅する頃にはへろへろで、今日は料理をする気力もないと思っていたのに、まさか扉を開けた先で恋人が出迎えてくれるとは思わなかった。

「おかえり、××ちゃん!」
「あ……サッチさん、ただいま……」

 出迎えたのは、最近同棲をはじめたばかりの恋人であった。時刻は十九時過ぎ。彼が帰宅するには少し早いような。首を傾げながらも促されるまま上着と鞄を手渡すと、彼はそれを片手でまとめて持った後、腰に腕を回してぎゅうと抱きしめる。「今日も頑張ったなぁ」耳元に落ちる声色は穏やかで、何より恰幅の良い彼の胸元にすっぽりと収まって抱きしめられると、癒し効果が半端ない。多分、オキシトシンとかいう幸福ホルモンが出ているのだと思う。

 だから、つい同じように背中に腕を回して「ただいま」と甘えるのも致し方ない事なのだが、サッチは一つも嫌な顔を見せずに笑むと、額に一つキスをしてから体を離した。

「今日は一段とお疲れみたいだな」
「そうなの、今日はいつもよりもトラブル処理が多くって…」
「そっか、お疲れさん。今日はそんな××ちゃんにおれっち特製のディナーを用意したから、一緒に食べようぜ」

 ちょうど出来上がったところなんだ。
 体を離すかわりに指を絡めながら手を引いて、リビングへとエスコートをする。リビングにあるダイニングテーブルには、いつかまた食べたいとリクエストしていたミネストローネに、大好きなとろとろふわふわのオムライスとサラダが並んでいた。フォークとスプーンは先日デートしたときに買ってもらった可愛らしい色合いのカトラリーレストに置かれており、オムライスにはハートマークつき。
 ああ、なんて愛された食卓だろう。

「今日は、残業続きの××ちゃんを労わるために好きなものにしたんだ。サラダも、××ちゃんが好きな小エビがたっぷり入れて、ドレッシングも好きだっていってた取り寄せの奴な」

 そう語るサッチは得意げで、これだけでも目頭が熱くなるほど胸が暖かくなったというのに、食べた後には特製のレモンシャーベットが待っていた。食べた後だって一緒にお風呂に入ろうとヘッドスパまでされて、まさに至れり尽くせりだ。

 彼が旦那さんであればどれだけ幸せなのだろう。××はほこほこと湯気を立てながら余韻に浸ったが、今日はあまりにも疲れすぎた。幸福に包まれたいまは眠くて仕方が無い。よって共に布団に入っても話をするほどの元気は残っておらず、「おやすみ、また明日話そうな」と笑う声を耳に瞼を閉じた彼女は、サッチさんから頭を撫でられるの好きだなぁと思いながら、意識を落とした。


 彼女が眠った後に、おれの時間は始まる。彼女の愛らしい寝顔を暫く見つめた後、起こさぬよう身を起こして戸を閉める。それから自室へと向かって椅子に腰を下ろし、足を組みながら起動させたパソコンで地図を開いたあとは、今度は携帯でSNSを開いた。

――疲れた~。今日は真っ直ぐ帰って寝よう…

 疲労困憊な、飾り気のない投稿と、それを証明する会社から家まで続く道筋。確かに、彼女は仕事を終えて真っ直ぐ帰宅してくれたらしい。おれは口角を吊り上げながらも画面に添えた親指をスイスイと動かすと、彼女と親しいフォロワーが送った新しいリプライを前に、ひとりほくそ笑んだ。

――おつかれ~!いつも頑張っててエライ♡♡