わああ、無理!もうやだ!無理!!お仕事行きたくない!
一体なにがあったというのか。ベッドの上で布団をかぶり、ダンゴムシになってワアワア泣き喚く幼馴染を見る。……まぁ、幼馴染ともなればこの光景も見慣れたものだが、ダンゴムシの駄々っ子モードになると中々泣き止まない。まるで、水をいっぱいに入れたコップをひっくり返したような泣き方だ。
大人になったのだから、自分の機嫌は自分で取ってもらいたいと思うのはカクの談。しかし、それを言うにも彼女の精神はいまだ幼い。なにより、そうやって仕方ないと諦める理由を探して切り捨てない事こそが惚れた弱みであろう。カクは溜息を吐いてキッチンへと立つ。
薄力粉に卵三つと牛乳、砂糖、片栗粉。卵黄と卵白を分けて、卵黄には薄力粉や牛乳、砂糖を入れてかき混ぜて、卵白の方には少しの片栗粉を入れてひたすら混ぜる。この作業というのは地味な上に大変で、よく料理人はこれを飽きずにやれるなと思うが、まぁたまの調理だ。今回は頑張ろうではないか。
手際よくメレンゲを作ったあとには、卵黄生地へと入れる。さっくりとメレンゲを潰さないようにかき混ぜて作った生地は、いずれスフレタイプのホットケーキになるのだが、毎回きれいな丸い形だけは作れない。
「……まぁ、こんなもんじゃろ」
歪に出来た三つのスフレホットケーキ。焼き目もなんだか斑でうまくいったんだか、いってないんだか微妙な出来ではあるが、この上には目玉焼きと厚切りのベーコンを二枚も乗せてやるのだから許してもらいたい。端の方には冷蔵庫で余っていたレタスやトマトを。ついでに彼女が可愛い!と言ってついぞ使わずに放置していた小瓶にメープルシロップを移し替えてやり、トレーに置いてダンゴムシが占拠するベッドへと運んだ。
「おうおう、よくも飽きずに……。ほれ、いい加減泣き止まんか。わし特製のスペシャルホットケーキセットを作ってやったぞ」
彼女が蹴飛ばさないよう、少し離れたところに置いてみる。すると布団をかぶったままのダンゴムシはぴたりと動きを止めて、小さな声で尋ねた。
「……スペシャル…?」
ははあ、現金な奴だ。
「ホットケーキが三枚ある。しかもスフレタイプじゃぞ」
「……」
「それに目玉焼きに、ベーコンを二枚もつけた」
「……、……」
「しかも薄っぺらいのじゃない、分厚いやつじゃ」
「……食べる」
「ん、それがええ」
言いながら、もそもそと出てきた彼女を見る。布団をかぶっていたせいで髪の毛がぼさぼさで、それこそ毛虫のようだが……まぁ、今は言うまい。フォークを差し出して、零すなよと言ってトレーを押さえてやると、彼女はくすんくすんと言いながら口いっぱいに頬張って美味しいと泣きながら喜んでいた。
全く、世話のかかる女だ。