一カ月に一度の支給日。この日は、主に鍛錬着や勉強道具など、このグアンハオで生活するなかで必要なものを支給される日だ。ただ、その中でも優秀な生徒たちはモチベーションの維持を図るために、それから唾をつけるという意味合いで特別なものが贈られる。
贈り物は船の模型であったり、サングラスであったり、野球バットであったり。人によって異なるものではあったが、その露骨な賄賂とも言える贔屓に「モチベーションの維持と言えば聞こえはいいが、単なる贔屓じゃないか」と対応の差に嘆く劣等生たちも多かった。
そんな中、特に期待もせずに配布列に並んだ劣等生のアネッタは、先生に呼び止められて顔を上げる。もしかして、私も贈り物が貰えるのだろうか。幼く頭の悪いアネッタは、優等生でもないのに期待をした。最近は鍛錬でも勝率が上がってきたし、テストの点数だってよくなってきた。カクが貰った船の模型とまではいかずとも、ヘアピンとか、何か貰えるかもしれないと、そう思ったのだ。
「アネッタ」
「は、はい」
「今後は毎日これを飲みなさい。一日一錠で…あぁ、変化があれば報告するように」
「あ……」
「返事をしなさい。分かったのか、アネッタ」
「……あ、は、はい」
アネッタに渡されたものは、きらきらの玩具でも、ぴかぴかの靴でも、ふわふわのぬいぐるみではない、瓶に入れられた大量の薬だった。隣ではカクやルッチが特別な贈り物をもらっている。それなのにアネッタが貰ったのは、竜人族だからと義務付けられた実験用の薬だけ。なんだかそれが酷く虚しく思えて、受け取った瓶を抱きしめると訝し気な表情を浮かべた先生に向けて頭を下げ、早々に列を離れた。
「………がんばったのになぁ…」
もちろん、期待をしたほうが悪いのだと言われてしまえばそれまでだとは理解している。それでも、近くで「ずっと欲しかった奴だ!」と喜ぶ優等生たちを見てしまうと、つい恨めしい気持ちになってしまう。
恨めしい気持ちはお腹の中で渦を巻く。重くて、暗くて、気持ち悪くて。隠し切れない感情は行動となり、近くにあった野花を見下ろしたアネッタは躊躇もなく踏みつぶしてしまった。
「アネッタ!」
ぐちぐちと踏みつぶすために下を向いていた顔は、名を呼ぶ声につられて上を向く。よりにもよって話かけてきたのは優等生のカクで、アネッタは手にもった薬を背に隠すと、「な、なあに」と愛想よく笑ったつもりで振り返る。ただ、カクは隠したそれに気付いたのかもしれない。一瞬手元を見て不思議そうにしていたが、すぐに視線を足元に向けると「足、花を踏んどるぞ」と言った。
「あ、う、うん。ごめん」
「別にわしゃ構わんが…あぁ、それよりも、何か貰えたか」
「う、ううん、何も」
「そうか……最近よく頑張っとるのにのう。成績も上がったんじゃろう?」
「上が……ったけど、その、……それでもまだ劣等生だし……」
「ふむ……おかしいのう、アネッタは絶対に強くなると思うんじゃが。」
カクは首を捻る。腕を組み、悩む素振りを見せるカクはいつだって一番の味方だった。だからアネッタは、カクからの優しさに感謝をしていた。しかし、いまは彼の脇に挟んだ特別な贈り物が己のなかに孕む虚しさを煽るようで、アネッタは言葉を詰まらせながら「そう、かな」と零す。優しさが辛いという言葉は、きっと今の状況を言うのだと思う。
「……あぁ、そうじゃ。なら、これをやろう」
視線を落とすアネッタに向けて、カクが手を差し出す。手のひらの上には、ころんとした、小さくて丸い、可愛らしい木彫りの置物があった。
「これ…、なあに?」
「ふふん。これはのう、わしの大好きなキリンの木彫りじゃ!可愛いじゃろう」
「う、うん」
「そうか、よかった。アネッタなら絶対にかわいいって言ってくれると思っておったんじゃ。じゃからこれはお前にやろう。プレゼントじゃ!」
カクは嬉しそうに笑っていた。
だが、アネッタはうまく笑えなかった。それどころか、表情を曇らせたアネッタはぐっと目頭が熱くなるのを堪える。カクが差し出したものは、先生から貰った特別な贈り物で、それを横流ししたものだと、そう勘違いしてしまったのだ。だから、言葉を振り絞るようにして零した「いらない」という言葉は震えていたかもしれない。
「え?」
カクが驚き、聞き返す。
「いらない……」
「え、あ、気に入らん、……かったか?」
「……ううん」
「じゃあどうして、」
「……だって………だってそれ、先生から貰ったものでしょ?」
「は?」
「ひどいよカク…、わ、わたしが……私が劣等生でいつも貰えないからって、だから…、こんな……っ、同情してのプレゼントなんて…っ!」
このタイミングでのプレゼントでなければ、アネッタは受け入れられた筈だ。しかし、プレゼントといって渡すにはあまりにもタイミングが悪かった。ゆえにアネッタは止まらなかった。いや、止められなかった。腹の中で渦を巻き、抱き続けてため込んだ感情が、逆さまにひっくり返したように零れ落ちて止まらなかった。
毎日毎日カクと同じ事をしている筈なのに。いや、最近ではカクよりも多くのメニューをこなして、自由時間も削ってトレーニングをしている筈なのに、ちっとも追いつけやしない。稽古をつけてくれるジャブラも、前より良くなったと言うけれど、それでも劣等生というレッテルが剥がされることはなかったし、どうして優等生のカクやジャブラたちはあんな劣等生とつるむのだろうと言う心無い言葉が無くなることはなかった。
途中、カクが「違う、これは」と言っていたが、頭に血が上ったアネッタはその言葉すら聞こえなかったらしい。なんせアネッタは子供だ。それも年相応の。いくらカクが百パーセント悪くなかったとしても、未熟であるがゆえに感情を爆発させた彼女は一度吐き出した感情を止めることが出来なかった。
ぼろぼろと零れた大粒の涙は頬を伝う。その様子に、カクは戸惑いながらもオレンジ色の袖口を伸ばして「アネ、話を」とそう言ったが、アネッタはカクを拒むように手を払う。その瞬間、片手に持った木彫りがアネッタの手によって弾かれて、ころりと落ちてしまった。
「あ……」
その瞬間、皮肉にも吐き出し続けたことにより、溜め込んでいたいたものが空っぽになったアネッタはふと我に返る。そうして、地面に落ちた木彫りを見た後、目の前にいるカクを見つめると、彼の目はアネッタをじっと見つめて静かに怒っていた。口元は僅か歪んでいて、言葉こそ出さなかったけれど、小さな身体は怒りを表していた。
「……これは先生がくれたものじゃない。」
「え?」
「……わしが、…お前に作ったものじゃ。」
「あ……」
静かに言いながら木彫りを拾うカクを見て、アネッタは僅かな恐怖と大きな後悔に包まれた。彼に謝りたかったけれど、どうしてもうまく言葉が出なかった。あれだけ傷つける言葉が出ていたのに、途端に臆病になった言葉は喉を潜り、代わりに何の意味も無い吐息が虚しく落ちる。
「それを劣等生だとか、同情だとか、」
「カ、ク――」
「お前の…っ、そのくだらん意地っ張りで…!人の思いを踏みにじるな!!」
「っ!」
「……っ、こんなもの……っ!」
カクは表情を歪ませると、木彫りのキリンをきつく握りしめて遠くに投げ捨てる。「あっ」小さく声は落ちたけれど、カクはふうふうと肩を上げ下げしながら浅い呼吸を繰り返し、此方をきつく睨みつけると「お前なんかきら…、……ッ、…勝手にしろ!」と、そう怒鳴るように吐き捨てて、走っていってしまった。
取り残されたアネッタはひ、うと息を零すように言葉を落として立ち尽くす。鼻がつんとして、手元には涙が落ちたが、だからといって今更カクが戻ってきてくれる筈もない。カクはいつものように涙を拭ってくれることも、優しく「アネッタ」と名前を呼んでくれることもないのだ。
そんな時、空に広がる曇天からぽつぽつと雨が落ち出した。降り出した雨は、次第に強くなる。周りの子供や大人たちも中へ戻ろうといって支給品を抱えて塔へと向かっていたが、アネッタだけは足を止めてその場に立ち尽くしていた。だって、戻ったらあの木彫りはどうなってしまうのだ。濡れてしまうじゃないか。ひょっとしたら、本当にダメになってしまうかもしれない。駄目だ。それだけは駄目だ。あれはカクが私に作ってくれたものなんだ。
アネッタは、一緒に戻りましょうと声を掛けてくれたカリファに向けて薬が入った瓶を半ば押し付けるようにして預けると、制止を振り切って塔とは真逆の、木彫りが放り投げられた方角へと走り出した。
「カク」
「……」
「おい、まだ怒ってんのかよ」
ざあざあどうどう。滝のように雨が降るなか、窓に乗せた両腕に顎を預けたわしは、ジャブラへと答えも返さずに外を見る。真っ暗で灯りのない外を見たって、何一つ面白くはないが、兎に角気分が悪い。
なんじゃアネッタのやつ。人の好意を無碍にしおって。
むかむかと、いらいらと。心の中で渦巻く苛立ちは消えることなく留まり続ける。それがどうにも気持ち悪く、換気がてら息を吐き出すと、氷点下近く下がった気温によって白く氷つく。こうして自分の中にため込んだ感情も、あっさりと未練も無く消えてしまえば楽なのかもしれないが、今日のことはどうしても許せなかった。なんせあの贈り物は、先生からの特別な贈り物ではない。正真正銘の、わしからアネッタへ向けたプレゼントだ。それも、数日かけて、アネッタが喜ぶだろうと思って作ったもので、彼女の言っていた同情なんか一ミリも込めちゃいない。
ただ、これを見てアネッタが笑ってくれたら嬉しいなとそう思って作ったものだった。
だからあの瞬間、手を振り払われたことで地面に落ちた木彫りを見て、自分の気持ちまで否定されたようでたまらなく悲しかった。
「カク」
そんな時、ジャブラとはまた違う堅苦しい声が降ってきた。
わしは、その言葉にびくりと肩が揺らす。なんせこの声は先生のものだ。まずい、何かしてしまっただろうか。今日一日の行動を振り返ってみたが特に思い当たる事はない。そんなことを思いながら今度は無視をする事もなく振り返ると、ジャブラの隣に立つ先生が困ったような顔で辺りを見回しながら「アネッタを見ていないか」と問いかけた。
「え?」
「支給品を配布したあとから姿が見当たらなくてな、聞けば食事の場にもいなかったようで……それで仲の良いお前のところにいるのではないかと思ったんだが……」
その瞬間、背中が一瞬で冷たくなるような、たまらなく嫌な予感が全身を駆け巡った。わしはひとり息を飲む。何故だかわからないけれど、アネッタはまだ外にいるのではないかと、そう直感で思った。視線は外へ。相変わらず、外はどうどうと音を立てるほどの強い雨が地面を打ち、「アネ」と零した言葉はひやりと白く凍り付いた。
「アネッタ!!!返事をしろ、…ッアネッタ!!!」
滝のような雨が降り注ぐ。傘も持たず、白糸を無数に垂らした雨をかき分けて声をあげたが、どうどうと降り注ぐ雨の音が続くばかりで、アネッタの声は返ってこない。ただ降り注ぐ雨が全身を濡れ鼠にして、容赦なく体温を奪うばかりであった。
「オイ、カク!お前どうしたんだよ!」
後ろから追いかけてきたジャブラが肩を掴む。ジャブラの瞳孔は開き、正気かと言いたげな顔をしていたが、今はアネッタを探すことが第一だ。肩を掴んだ手を振り払い「アネッタは絶対に外におる!探さんと…!」と言うと、ジャブラは振り払われた手でもう一度腕を掴み「こんな雨のなか居るわけねーだ狼牙!」と声を荒げた。
「居る!!絶対に外におるんじゃ!!」
「なんでンなことが言えんだよ!もうずっと雨が降ってんだぞ?!」
「いいや、絶対におる!だって……、…わしが、……っわしがあいつにやったものを投げたから…!」
この時のわしは、もう正気ではいられなかった。雨が降り出したのは約二時間前。吐息は白く氷つき、肌を突き刺すような寒さの中、二時間も外にいるなんてそれこそ正気ではない。でも、アネッタのことはわしが誰よりも知っている。彼女は間違いなく、外にいる。わしが放り投げた木彫りのキリンを探し続けているのに違いないのだ。
この様子を見て、ジャブラはわしの考えを悟ったのだろう。ジャブラは視線を辺りの茂みに向けると、濡れて重くなった頭を乱暴に掻いた。
「あー……ッ!っくそ!!オイ、カク!暫く探して見つからなかったらすぐに戻るからな!!」
「…!…ジャブラ、ありがとう!!」
「礼はいいから、さっさと探して戻るぞ!」
滑りやすい地面を慎重に踏みしめながら、わしはアネッタの名前を呼び続けた。しかし、雨の音が強すぎて、どこからも返答はなく、一体どこまで行ってしまったのだろうかと焦りが滲む。なんせ、このあたりは外灯なんて親切なものはない。だから灯りの無い森で木彫りを探すとなると、地面に這いずりながら探すしかない筈で、ともすれば位置関係の把握も難しく、知らず知らずに森の奥へと進んでしまった可能性だってある。
森の奥は立ち入り禁止領域になっている。立ち入り禁止領域はぐるりと有刺鉄線が張り巡らされているので、それを越えることはないと思うが、越えた場合には脱走とみなされて重い罰を与えられる。以前だってそう、このグアンハオに入れられたばかりの候補生が其処に足を踏み入れて、やがて姿を消した。先生たちは親元に返されたといっていたが実際のところは分からない。あの時は、馬鹿なやつがいたものだとジャブラと笑ったが、いまは笑えない。とてもじゃないが、笑えない。なんとしても、一刻も早く見つけなければ。
「アネッタ!!」
何度目かの呼びかけの末、微かな音が耳に届く。雨の音か、それともアネッタの声か。どちらか分からなかったけれど、アネッタなような気がして、これを聞き逃すわけにはいかないような気がして、「アネ!返事をしろ、アネッタ!!」と言いながら辺りを見回すと、草むらの陰から人の足が伸びていることに気付いた。
それをみた瞬間、またひやりと背中が冷たくなって恐る恐る草むらに近づいていくと、そこにはアネッタが倒れていた。急いで駆け寄り、彼女を起こそうとしたが、彼女の意識はなくぴくりとも動かなかった。
「アネッタ、起きろ…っ、いかん、だめじゃ、死ぬな……アネ…!っ、~~~っアネッタ!!!」
そうパニックになりながら、ジャブラを呼ぶことも忘れて声をかけると、声に気付いたジャブラが駆け寄って、アネッタの存在に気付くや否や舌を打つ。それから冷静に首や手首で脈を図り、息があることを確認したジャブラは「帰るぞ」そう短くいってアネッタを背中におぶって立ち上がった。
「ん………」
僅かな揺れを受けたことがきっかけか、アネッタが意識を戻した。金色の瞳は虚ろで、まだ意識ははっきりとしていなかったが、視線の高さが違う事に気が付いたアネッタはさあっと顔を青くして「ま、って、やだ、まって、まだ帰らない」と酷くパニックを起こした様子で繰り返す。背中におぶられたままうごうごと動くアネッタをおぶったジャブラは「おい、アネッタ…っ馬鹿、動くんじゃねぇ!」と怒鳴ったが、それでもアネッタは止まらなかった。
「アネ、何を言っとるんじゃお前は…!もう戻るぞ!」
「駄目…やだ、…だって、だってまだカクの見つけられてないもん!」
「やっぱりあれを探しておったのか…!」
「だって、だって……あれは……!」
その時だった。
「いい加減にしろクソガキ!!!」
ジャブラの怒声が辺りの雨音たちを切り裂いた。
「おいアネッタてめぇ、どんだけこいつを心配させたと……!」
「で、でも……っ」
「でももヘチマもねぇ!テメーが馬鹿やって自滅すんのは構わねぇがな!人様に迷惑かけんじゃねえ!!」
「っ!!」
比較的短気なジャブラが怒鳴る事なんて珍しい事ではない。それでもこうしてしっかりと正論片手に怒鳴ることなんてそうはない。だからこそ、このジャブラの説教は何よりも響いたらしい。アネッタは少しだけ冷静を取り戻したように息を飲み込むと、「ごめん、なさい」と言葉を震わせながら小さく零した。
そうして、このアネッタ行方不明事件はひっそりと幕を閉じるのであった。
あれから五日が経った。あの豪雨のなか、二時間も外を探し続けていたアネッタはもちろん熱を出した。それも四十度近い高熱は三日三晩下がり続けず、看病を買って出たものの、彼女はあの日のことを酷く後悔していたようで、眠っている間もごめんなさいとずっと謝り続けていた。
「………か、く」
ようやく目覚めたアネッタが、金色の瞳いっぱいに涙を溜めてわしを見る。布団から伸びた手はわしの袖口を掴み、行かないでと瞳が訴えるので、反対の袖口で涙を拭ってやると、大粒の涙が袖口にじわりとしみ込んだ。
「もういいんじゃ、アネッタ。おまえが無事で良かった」
零した言葉は嘘ではない。しかしアネッタは納得できないようで、頭に乗せた濡れタオルを落して身を起こすと、「よ、よくないよ、だって、だってカクが作ってくれたものが……」とわしの袖口を力いっぱい握りしめて下唇を噛んだ。
「……のう、アネッタ。わしゃ、アレが無くなるよりもお前が死んだり、辛い思いをしとる方がよっぽど辛いんじゃ。…じゃからあれはもういいんじゃ」
「か、く」
「もう謝らんでいい」
お前、寝とる間もずーっと謝っとったんじゃぞ。そう言いながらわしは彼女の目元を拭う。相変わらず泣き虫のアネッタの涙はその程度じゃ止まらなかったけれど、それでもわしは何度も彼女の目元を拭って、彼女の瞳をじっと見つめた。
「……その代わり約束してくれ。もうあんな無茶はしないってことも、わしからのプレゼントが同情からのものじゃないと思うことも」
「…うん……」
今回のことはわしが折れた形になるのだろうか。分からない。それでもあそこまで森の中を一人探し続けてくれた彼女を責める気にはならなかった。あの時抱いたはずの怒りは、いつしか彼女への心配に変わり、願いへと形を変える。それがなんだか不思議な気もするのだが、どれもこれも相手が彼女だからなのだと思うと納得できてしまう自分もいる。そう、わしはきっと彼女にとびきり甘いのだ。
腕を引いて彼女の体を抱きしめるとアネッタは不思議そうにしていたが、構わずぎゅっと涙が止まるぐらい抱きしめる。アネッタの体は熱のせいでじんわりと温かったけれど、あの日のように冷たい身体よりかはずっと良いのではないかと、一人でそんなことを思った。
「あっ」
「うん?どうした」
「……、……すごい…鼻水ついた…」
「げ!」
まぁ、鼻水は勘弁してほしいが、なんせわしは彼女に甘い。
どうやらこれもわしが許さなければならないみたいだ。