帰り道に君と会って


春日
「おっ、××ちゃん!奇遇だなァ、会社の帰りか?」
 声に袖を引かれて前を見ると、大きく手を振る一番の姿があった。足を弾ませるように駆け寄る一番。その姿は、どこかゴールデンレトリバーとか、セントバーナードとか、とにかく大型犬のように見える。それに、ただ偶然出会っただけだというのに駆け寄る彼があんまりにも嬉しそうに笑うものだから、まるで特別扱いをされているようだと……ちょっとだけ抱いた優越感が疲れを癒す。
「あぁ、一番。……うん、仕事の帰りなんだけど今日はとくに疲れちゃった」
「そうか、お疲れさん。…よォし、じゃあ頑張ったご褒美ってことで…一番せんべい!……なーんてこれじゃご褒美にもならねえか?」
 勢いよく出された、顔が隠れるほどの大きなお煎餅。しかし咄嗟の思いつきだったのか、煎餅を出したあとの一番といえば気恥ずかしそうに頭を掻く。……それが微笑ましいのなんのって。ああ、なんだか彼がいると飽きないな。
「ふふ、頑張ったご褒美だって。嬉しいな」
 ××は一番せんべいを受け取って笑うと、一番は増々気恥ずかしそうに頭を掻いて「っそ、ういえばこのあとみんなで飯食いに行くんだけどよ!」と話を逸らした。


「あれぇ……××ちゃん、奇遇だねぇ」
 飲み屋街で絡まれているところを、堂々と割り込んで声をかける趙。それから、酔っ払いにはさり気無く関係性を匂わせるよう手を掬い、指を絡めてみたが酔っ払いには分からないらしい。面倒臭い事になりそうだと手を引く趙は笑う。
「今日さぁ、うちの店で新商品が出たから食べていってよ。後悔させないからさ」
 ……さて。彼女の反応はいかほどか。ちらりと見た際に見える熱を持った表情。趙はもう一度息を漏らして笑ったあと独り言ちるよう呟いた。「期待しちゃうんだよなァ、そんな顔されると。……うん?…いいや、なにも。それより早く行こうよ、××ちゃん」にこりと、下心なんか見せずに笑ったが……いいや、今日は華の金曜日。少しぐらい羽目を外したって許されるだろう。趙は指を絡めたままの手を上げて唇と押し付けると、彼女に聞こえるだけの小声で囁いた。
「それとも、このままデートでもしちゃう?」

難波
「お?××じゃねえか」
 会社勤めは辛いなぁ、ご苦労さん。皮肉にも純粋な労いにも取れる言葉に眉を顰める。思わず「それってマウント?」と尋ねると「なんだよ、人が折角労ってやってるっていうのに」と返されるが上から目線な上に、どこか笑い混じりだ。
「皮肉めいてるのよねぇ難波の言い方って」
「そりゃ元は残業続きの病院勤めだからな、お前の苦労も分かるってもんよ」
「その割には笑い混じりじゃない?」
「んなこたねぇよ」
 あーあーいやだねぇ、これだから会社勤めのお堅い真人間ってやつは。口の悪さが見事に露呈しているが、彼の性格を考えれば、これも他愛ない雑談のつもりだろう。そこに悪意の色はなく「これから一番たちと飲むんだ、お前も来るだろ?」と弾んだ声が誘う。
 ……ああ、当たり前に輪の中に入れてくれるんだもんな。喜びを噛みしめて返事替わりに袖を摘まむと、彼は少しばかり気恥ずかしそうに頭を掻いた後「ん、じゃ、まぁ……行くか」と愛想を減らして呟いた。