護衛任務で受けた庇い傷は、それ相応の代償を払う事になった。
最低でも三週間の休暇。その休暇をバカンスに出来れば最高だったのだが、傷の経過を見るために外出は許されず、缶詰めにされて暫く。暇潰しにと用意された本の数は残り一冊。それを慣れない左手で床に倒して開くと、足で踏みつける事で抑えながら読んでいく。この中身だってもっとキラキラしたファンタジー話であれば夢中になって読めたのに、興味もない数式や歴史が乗った本はあまり面白く無いし、一切身につきやしない。なんだ、ハムサンドイッチの定理って。
総じて暇であると後ろに寝転ぶと、右手に巻かれた包帯が目に映る。それをなんとなくの気持ちで解くと、その先にある青紫に濁った腕にぽつりと呟いた。
「………あは、化け物みたい」
護衛対象を庇って受け止めたナイフには、お粗末な毒が塗りたくられていた。一体何を混ぜ込んで作られたのか分からない、お粗末でタチの悪い毒。神経をやられたのか、一時的に麻痺をしているのかダランと垂れた手の感触は無く、気付けば青紫に変色をしてしまった。…まぁ、これも暫くすれば回復するらしいので特に危機感は持っていないが、しかし、それにしても酷い見た目だ。乾いた笑いが落ちる。
「こら、お前は大人しくすることも出来んのか」
其処に、叱りつけるような言葉が落ちて来る。見上げると其処には呆れ顔のカクが立っており、隣に腰を下ろすと手を伸ばしてくるが、なんとなく触られるのは気が引ける。手を引くと、それでもかまわずと言った様子で手を掴んで「包帯、ひとりでは巻けんじゃろ」そう短く呟いた。
「……」
日に焼けた浅黒い手が、器用に包帯を巻いていく。その間、帽子のツバは下を向いていて気まずさから「怒ってる?」と尋ねると、「少しだけな」という言葉が向けられて、怒りにも悲しみにも取れる複雑な色をした瞳がアネッタを見つめた。
「……まぁ、あの場ではあれが最善じゃったと思うが、それでもこの感情を上手く吐き出せん」
包帯を巻き終えた後の手が止まり、利口である筈の彼が弱音に似たものを吐き出して肩に頭を預ける。腕も回さずに、ただ預けられただけの頭。耳元で聞こえた吐息の漏れる音は安堵か心配か。……ああ、いや、どちらもか。それを理解しているからこそ、彼女も安易に抱きしめ返す事はせずに、頬を軽く摺り寄せて「ごめんね」と返した。
「外にいけるようになったら、美味しいものでも食べにいこうね」
「……お前の奢りじゃぞ」
「ん、少しだけね」
「少しだけ?」
「……バナナジュースとか」
「わはは…けち臭い女じゃのう」