「ううーん……どうしたもんか……」
宝石を詰め込んでいた箱が、ついにいっぱいになってしまった。満員御礼で蓋すら閉じなくなった宝石箱。その隙間から顔を覗かせた宝石たちは実に美しいが、給仕係が出入りする場所に置くものとしては防犯意識に欠けている。
であれば新しく宝石箱を買い足すか、売買するか。海賊が持っているような大きな宝石箱を買う選択肢もあるが、あれはいざって時に持ち運べない気がする。
「かといって売るのはなぁ……」
いくら飾りもせず、適当に入れているとはいえ、大事に集めたものだ。売買する気は無いし、誰かにあげたくもない。いっぱいになった宝箱を並べてウンウン唸っていると、そばで読書に勤しんでいたカクが本を閉じた。
サイドテーブルに本を置き、宝箱を覗き込む。
「随分とため込んだのう……そんなにあるのならパヴェリングでも作ったらどうじゃ」
「パフェリング?美味しそうだね」
「……パヴェリングじゃ」
呆れたような声。
頬をムニーと摘ままれた。
「ぱべ!」
「パヴェじゃ」
「ひっはられへはら、うまふひゃべれらいよ~」
まったく、どうしてカクはいつもこうなんだろう。嫌がらせのようにムニムニと頬を摘ままれて、そのうえ面白おかしく揉まれる。
呆れたような顔が、少しだけ満足げな顔に変わり手が離されると、私は両手で頬を包んで擦りながら言った。
「でも、パフェ……ぱべ……パヴェリングってどんなやつ?」
「パヴェリングは、石畳のように小さな宝石を隙間なく敷き詰めたものじゃ。お前の持っとる宝石は質もいいし、小さく砕いて作る事も出来るじゃろ」
「えー、でも砕くのはなぁ……」
「……扱いは適当なくせに、我儘じゃのう。しかし、その状態じゃ給仕係に盗まれても文句は言えんぞ」
「もうちょっと大きな宝箱にするのはどうかなぁ、ほら海賊が持ってるような大型の」
「……尚更盗んで下さいと言っとるようなものじゃろ、それ」
カクがサイドテーブルに積み上げた本の中で、装飾品を取り扱ったブランドのカタログを引き抜く。確か、あれは随分と前に置きっぱなしにしていた私物だ。それをパラパラと捲った後、折り目だらけになったカタログの途中を指す。
黄色と緑、それからオレンジの小さな宝石を敷き詰めたリングだ。私は目を光らせた。
「ほれ、お前が気に入っとるこれもパヴェリングじゃぞ」
「あーっ、これパヴェリングだったんだ!お花畑みたいで可愛いって思ってたんだよね。……でも、うーん……でも、削るのはなぁ……」
魅力的ではあるが、削るのはどうにも抵抗がある。
宝石箱に詰まった無数のきらめきを眺めていると、カクは一番上にある水色の宝石を手に取って、私の首元へと向けた。彼の指が傾くたびに、ほのかな輝きを返す。
「それか、ブローチにするのもええじゃろうな。そうしたら、形を削る必要はない」
「ブローチ……髪飾りとか、ネックレスにも出来る?」
「おお、出来るじゃろうが……他のものが欲しいんか」
「女の子だからね」
だって、それらしいアクセサリーは耳にあるピアスだけだ。それも、ピアスは引っかかって耳が千切れてしまうかもしれないという謎の過保護で一つだけ。ネイルもせず、特に可愛げもない手を見つめたあと、フと思いついたように尋ねた。
「カクは指輪くれないの?」
「え゛っ」
「え?」
なんだ、その濁った反応は。
見つめると、視線が逸らされて、その顔がだんだんと赤くなる。それがなんだか不思議で、彼の視線を追いかけるよう顔を覗き込んだ、その瞬間──大きな手が目元を遮って、柔らかいものが口に触れた。
「んむ」
ほんの一瞬の出来事だ。瞬くうちに手のひらが外されて、ジトリと此方を睨むカクと目があった。
「意味、分かっていっとるんか」
「……なんでちゅーしたのぉ……?」
会話が噛み合わず、デシ!と重ためのチョップが返ってきた。
しかし、カクという男はツンデレで。一か月後には宝石たちが煌びやかなジュエリーに形を変えて、宝石の無い金色の指輪が私の薬指で光っていた。