違和感を感じ始めたのは二週間前のこと。
最近どうにも幼馴染の様子がおかしい。
普段のアネッタは付き合いが良く、誘えば買い出しであろうと付いてくるし、誘わずとも暇だなんだと遊びに来ることもしばしば。そんなわけで任務都合以外で長く離れる事が無かったのだが、ここのところどうにも付き合いが悪く、誘っても「その日は用事が」と言い、ここ数日に至ってはわしの顔を見るや否や「あ、ごめん。用事が、」なんていって踵を返す始末だ。
はじめは何か任務が立て込んでいるのかと思っていたが、その割にカリファと一緒にいる姿をよく見かけている。つまり、わしはよりにもよって好意を抱いている女に避けられている可能性があるということだ。
一体自分が何をしたというのだろう。原因が分からないだけに、避けられているという可能性が自分の首を絞めるような、そんな息苦しさを感じ、わしは気がどうにかしそうになった。せめて外の空気を吸おうと自室を出て、外へと出ると、カリファとアネッタが二人並んで歩いている姿を見つけて、思わず息を飲む。
それから、気付いたときにはアネッタの腕を掴んでいて、アネッタはやけに驚いた顔をしていた。
「ど、うしたの…?あれ、ごめん。何か約束してた、っけ…?」
幼馴染が何やらいつもと様子が違う。何となくそれに察したらしいアネッタは、わしの顔を見て困惑していたような表情を浮かべていたが、約束なんてしているはずもなく、かといってこの場でようやく捕まえることのできた彼女を離すこともできずに、不自然な沈黙が生まれる。
「…約束は、しとらんが」
「あ、そうなの。じゃあどうしたの?」
アネッタはわしの暴走じみた行動を怒るわけでもなく、不機嫌さをにじませるわしをただ不思議そうに見上げては緩く首を傾げた。
「……さ」
「さ?」
「最近…やけにカリファと仲良しじゃのう。」
「あら、そうかしら」
「というか私たち前から仲良しですけど」
「ねぇ?」
あまりにも回りくどい、唐突な問いかけだったと自分でも思う。わしの問いかけを受けてカリファとアネッタは、お互いに顔を見合わせて首を傾げたのち、視線をこちらに戻す。しかしその二人しかわからないような雰囲気がまた酷く不快で、知らぬうちに握ったアネッタの手首をぎりぎりと握りしめていた。
「いたたた…ねぇ、カク、痛いよ」
「………じゃあ」
「じゃあ?」
「じゃあなんでわしを避けとるんじゃ」
わしは、普段よりも幾分か焦りながら問いかけたと思う。
「え」
「最近わしの顔を見てはどこかへと行くじゃろう」
今まで喧嘩したとて次の日には仲直りをしていたので、こんなにも突き放されたことがなかったのだ。
「……えーと、それは」
言葉を濁らせながらちらりとカリファを見るアネッタ。
カリファもアネッタを見つめたが白々しくも肩を竦めるだけで、それがまた自分だけ省かれているようで気分が悪い。
「えーと、また今度じゃダメ?ちょっとこれから用事があって。」
「………またそうやってわしを避けるつもりか」
次に出た言葉は自分でも驚くほど無様な言葉だった。沸々と湧き上がるような怒りに体温が高くなるのを感じたが、それを制御出来ずに言葉をつづけた。
「なぁ、アネッタ。おぬし、気づいておるか?ここのところ、そうやってわしから離れようとしておったことに」
「ち、違うってば!今日は本当に…」
「今日は?じゃあやっぱり避けとったんじゃな」
「う」
アネッタが言葉を詰まらせる。視線を横に反らすその仕草は噓をついているときのそれだ。
「……わしが何か傷つけてしまっていたのなら謝る。」
「カクは悪くなくて……うう、だからぁ……」
「わしには言えんのか」
いま、この場の雰囲気は最悪だったと思う。女の腕を掴んで凄む男に、困ったような表情を浮かべる女。そこにカリファが「カク、アネッタは…」と会話に割り入ってきたが、
「カリファは黙っとれ!わしとアネッタの話じゃ」
そう怒鳴りつけることで一蹴すると目の前のアネッタが露骨に不快そうな表情を浮かべた。
「ちょっと、カリファにあたらないでよ」
「じゃあ理由を話したら良いじゃろうが、何故隠すんじゃ!」
「だ、だからぁ…」
「……」
一秒、
二秒、
三秒、
それから長い間があいたその時だった。
「……~~~~~~~ッ、カ、カクの誕生日プレゼント探しをカリファに付き合ってもらってたの!」
アネッタが叫ぶように声を上げた。
「もうすぐカクの誕生日でしょ、だから、その、何かプレゼントできたらと思って……カリファと一緒に考えて、た、んだけど……」
アネッタは顔を赤くして、恥ずかしそうな、泣きそうな、そんな表情していた。そりゃあそうだ、幼馴染の誕生日サプライズプレゼントを考えていたら、当の本人から教えろなんて言われるのだから。それをなんだ、避けてるだの、省いているだの。自分が今まで抱いていた考えも、口に出していた言葉も全て勘違いの早合点であったと確信したわしは、羞恥心でじわじわと顔に熱が集まるのを感じて、視線を横にずらすと、「子供ねぇ」とそれはもう無様とばかりに鼻で笑うカリファと目があって、
「ん、お、…お、おぉ、そうか、それは……その…すまん。」
そんなぎこちない言葉を返すしかなかった。