「あ、ねぇ、ジャブラ!」
放課後を知らせるチャイム音が響くなか、薄っぺらい鞄を手に校門を潜って外に出たおれは、後ろの方で掛けられた声に足を止めた。後ろを振り返ると、膝丈よりも短く折ったスカートを揺らした女が息を切らしながら走ってきて、おれの服の裾を握って「は…っはぁ……捕まえた!」と呟いた。
「あん?なんだよ、つーかカクはどうした。」
声を掛けてきたのは同じ養護施設で暮らす、一学年下の後輩・アネッタだ。
おれよりも身長の小せえアネッタを見下ろした際に、アネッタ持っている鞄につけたキリンのキーホルダーが目に入る。そういえばカクの姿が見えないな。気になって辺りを見回して一緒に下校しない日もあるのかと疑問符を浮かべて問いかけたが、アネッタは意味深に顔を反らすあたり、あまり触れられたくない話題のようだった。
「……、…カクとは別に帰ってきた。」
「へえ、珍しいこともあるもんだな。」
「だから一緒に帰ろ。」
「おう、いいぜ。」
普通の学生にとっちゃ、女子から引き留められて一緒に帰ろうと言われるなーんてシチュエーションはときめくポイントなのかもしれねぇが、曲がりなりにも家族みたいな奴に今更ときめくはずもなく、おれはすんなりと了承をして養護施設へと向けて歩き出した。
しかし五秒待っても十秒待っても話題は振られない。一緒に帰ろうと言っといて、何か会話するわけでもなく、口ごもっているものだからおれは苛々しながら足を止めると我慢ならずに声を上げた。
「だーーっ!なんだこの雰囲気は!!構ってちゃんはやめろ!」
「構ってちゃ…?!か、構ってちゃんじゃないもん!」
「うるせえ、どうせカクと喧嘩したかなんかだろ!」
う、と言葉を詰まらせるアネッタ。ほれみろ、じゃなきゃ一緒に帰ってないなんておかしいんだ。
「………カクさぁ、今日女の子に呼び出しされてて。」
「ほー、アイツもモテんだなぁ。」
「……あの、さ、もし付き合ったら遊んでくれなくなっちゃうよね」
「あ〜?そりゃあそうだろ。付き合い始めたらお前と帰ることはねェだろうし、休みもデートに行くんじゃねえの。」
まぁアイツに限って付き合うことなんてまず無えんだろうが。
いや、コイツへの想いを拗らせているからこそ、嫉妬させたいとかで他の女と付き合う可能性はある、か?いや、あるだろうな。そんなどうでも良いことを考えている間もアネッタはどこか沈んだ顔をしていて、おれは何が言いたいのか、何を思っているのかは分かり切っていたが「どうしたよ」と問いかけると、
「なんか、嫌だなぁ」
と、ぽつりと呟いた。
その言葉に、じゃあ付き合うなって言っちまえよ、とかお前がアイツに言ったらアイツは間違いなく付き合うだろうよ、とか色々言葉は浮かんだものの、小さく呟くその顔があんまりにも寂しそうで、茶化す気も失せてしまったおれは、自分の頭をがしがしと掻くと、アネッタの頭に手を置いた。
「…ったく、寂しそうな顔しやがって。」
そういってアネッタの頭を乱暴に撫でると、アネッタは少し驚いたような顔をしたあとに眉尻を下げてへったくそにと笑った。
なお、このあとアネッタを追って走ってきたカクから睨まれる羽目になったのはいうまでもねぇわけで、おれはアネッタが寂しそうにしていたことも、他の女と付き合うのは嫌だといっていたことも絶対に教えてやらねぇと、そう固く誓った。