造船所での楽しい思い出

造船で名高いウォーターセブンで、いくつもの造船会社を束ねた世界一の巨大造船会社ガレーラカンパニー。そこで屈強な男たちが木々を運び、船を造る傍らで、上半分ほどつなぎ脱いで袖を腰部分に撒く水着姿の女がぽたぽたと雫を落としながら敷地内を歩んでゆく。そこにタチの悪い海賊が水もしたたるいい女だと声をかけたが、女はにこりと笑うだけでその誘いには乗らず、やはり足早に休憩室兼ねた建物へと入っていった。

「たっだいまー」

鈴を転がすような女の声がむさくるしい男たちのいる休憩室へと響く。
男たちはぽたぽたと雫を落とし、たわわに実った胸元に雫を垂らす女の姿を見て思わず目を奪われたようだったが、その視線を遮るようにカクが前に立つと、「あ、カクの野郎!」「またアネッタちゃんを独り占めにしやがって!」「見えねえ!せめて見せろ!」と非難が轟々と上がる。まぁカクはそんな野次馬とも言える声も気にせずに、濡れ鼠の頭にタオルを乗せていたが。

「まーた全然拭いておらんな。」
「タオル忘れまして」

ひひ、と悪戯に笑うアネッタにカクはふっと笑うと、タオルでぐしぐしと犬でも撫でるように多少乱暴めに頭を撫でてやり、やがてそこにパウリーが戻ってくると、アネッタはタオルから顔を覗かせて声を掛けた。

「あ、パウリー!」
「だーーッ!!アネッタおま、またハレンチな恰好しやがって…!」

しかし声を掛けられたパウリーは女の姿を見てぎくりとしたかと思うと、ぼぼぼぼと一気に顔面を真っ赤に染め上げると思い切り指をさして吠えたのだが、アネッタの方も言われ慣れているのか、それとも単に”良い性格なのか”はたまたどちらもなのか、カクから頭を拭かれながらもじいとパウリーの顔を見つめると、

「潜っての点検作業なんだから仕方ないでしょー。あんまり煩いともっときわどい水着きて仕事するわよ」

と一言、脅しを零す。ハレンチだからやめるとか、そういうことではない、脅しだ。
正直今もツナギ服を着ているものの、上はビキニタイプだというのに、これ以上きわどいものとなったらどうなるんだ。どうなってしまうのだ。

「うぐっっ…っそ、それでいい!」

パウリーは頭の中で天秤にかければ仕方ないと折れるはめになり、目の前のアネッタは腕を組んでにんまりと笑った。

「あ、そうそう、それで点検作業なんだけど、ちょっと報告していい?」
「あぁ?なんだ、異常でもあったのか」

さてアイスブレイクは終わったところで、会話を本題へと移すとパウリーはいまだに顔を赤くしていたが、わざわざ許可を取ろうとするアネッタに対して少しばかり訝し気な視線を向けた。

「海列車の線路に異常はなかったんだけど、線路の真下に沈没船の残骸があって、それがアクアラグナなんかで海が荒れた時に引っ張り出されて引っかからないかちょっと心配かも」

パウリーは葉巻を噛むと懐から取り出して線路の続く地図を開けば、短く、「場所は?」と問いかける。

「えーとB地区W26ってとこかな」

B地区W26とはアクアラグナが起きた場合に波々がぶつかり合い複雑な海流が一時的に出来る地域だ。そこに沈没船の残骸があるということは、複雑な海流が残骸を拾い上げて最悪はそれを水面に浮かぶ線路に浮かべて傷つける可能性があるということだ。そうなったら線路の修復で海列車が暫く使えなくなってしまうため、それを放置するわけにはいかなかった。

「アクアラグナが起きたら間違いなく被害が出る場所だな、…よし、じゃあこのあと撤収作業するか。アネッタ、お前も手伝ってくれ。」
「はいはい。任せてくださいなー…てわけで、カクさん、また私濡れるらしいから拭くのはいいよ」

アネッタは眉間に皺を寄せるパウリーとは対照的に少しばかり呑気そうな様子で零し、頭を拭いているカクをちらりと見上げて声をかけるが、カクは手を止めることなく顎でくいと時計を指して

「ん?濡れたままじゃ飯を食いにいけんじゃろう。」

と、零す。さり気無い食事のお誘いだったが、アネッタは時計を見て、あぁ!と声を上げると納得がいったように頷く。恐らくこの二人は一緒に食事をすることが当たり前の出来事なのだろう。その姿にパウリーは「お前ら本当仲いいな………」と不思議そうに言ったが、カクは「仲がいいというか、出来の悪い妹の面倒をみているというか」と鼻で笑うが、そんなことは羨ましいとハンカチを噛む男たちの前では煽りでしかないのだが、カクは分かっているのだろうか。いや、ひょっとすると分かっていてやっているのかもしれない。

「だぁれが出来の悪い妹よ」
「おぬし以外に誰がおるんじゃ?…よし、これぐらいでいいじゃろう。」

アネッタは自分を小馬鹿にする彼不満をあらわに唇を尖らせていたが、「ありがと」と短く返事を返すと、濡れたタオルを首にかけて多少乱れた髪の毛を手櫛で整えて、ふう、と息を零す。

「あ……おい、アネッタ。」
「ん?どしたの」
「…あんまり食べすぎんなよ」
「え、私この後がっつり食べようと思ってたんだけど」
というか急すぎて、一体何なんだ。アネッタは不思議そうに首を傾げた。
「太って沈むぞ」
「ムキー!」

アネッタは猿のような声を上げるとアリクイのように両手を上げて、思い切りパウリーの腕にしがみついた。そして、しがみついたとなれば当然ぎゅうぎゅうと押し付けられる柔らかなそれに、パウリーはまた顔を真っ赤にすると声をあげるのだ。

「わ、馬鹿やめろ!!胸を!!押し付けるな!!!!!」
「こら、アネッタ!よさんか!」

カクも仲裁に入ったようだが、パウリーとアネッタの攻防戦は続き、さながらレスリングショーのように他の男たちの笑い声混じりの野次が飛ぶ。

「クルッポー、まったく騒がしい奴らだ」

真夏のような眩しい日差しが差し込む休憩室に、呆れたようなハットリの声が響いた。