「アネッタ、怒っているのか甘えているのか一体どっちなんじゃ」
ベッドで背中を向けて寝そべる幼馴染の女を見て、少々呆れたような口ぶりで呟くカクは、自分の腹にぐるりと巻かれた岩のように硬い鱗で覆われた竜の尻尾に視線を落として「それと、痛いんじゃが」と短くクレームを零す。
「……どっちもなんですー。」
「やれやれ、機嫌が悪いのう。今日は一体どうしたんじゃ」
どちらかというと機嫌が良い事の方が多いアネッタは、今日、すこぶる機嫌が悪かった。
昨夜は機嫌が良かったと思ったのだが、起き抜けの彼女は非常に機嫌が悪く、様子を見にやってきたわしがベッドへと座るとずるりと伸びた大蛇のような尻尾が腹へと絡みついたのだが、ごつごつと岩のように硬い鱗を纏った尻尾は正直心地良いものではなく、どちらかというと痛い。それでも彼女の機嫌の悪さの原因が気になって問いかけると、彼女はごろりとわしの方へと寝返りとしたかと思うと、わしの体へとすすすと体を寄せた。
「…あのね、………ここ、見てほしいの」
アネッタが指をさす。指定されたそこは根本近くで一体何があるのだと疑問符を浮かべて、さながら名探偵のように顔を近付けて細かい傷などはないか確認していると、尻尾に切れ目が入って、一部がなんとなく、白くなっているような。そんな部分を見つけて、それが一体何なのかと悟ったわしは答えを零す。
「……あぁ、脱皮か」
「そうなのーーー!!ついに数年に一度の脱皮が始まっちゃったみたいで…っ!」
竜人族最後の生き残りである彼女いわく、数年に一度の脱皮があるようだ。彼女と出会ってからはもう4-5回目になるだろうか、爪先で切れ目をカリカリと掻くと隙間が生まれて少しばかり浮き上がってきて中々の爽快感がある。
「それで機嫌が悪かったのか。」
「そう、だって脱皮したら抜け殻を提出しなきゃいけないし……。」
「難儀じゃのう」
古くに滅びたとされていた為、いまだ謎が解き明かされていない竜人族の情報はたとえ爪が伸びるスピードでも、どんなものでも有益とされていた。そのため数年に一度の脱皮行為については研究に利用するという名目で抜け殻の提出が必至となっており、彼女はそれを酷く嫌っていた。
「…もー……本当にやだ……抜け殻提出とかすごくやだ、下着提出するみたい…。」
彼女は少しばかりわしに巻き付かせた尾に力を込めた。
「………どうしよう、いつか竜人族の抜け殻とかいって展示されたら」
「それは嫌じゃのう」
「恥ずかしくない?自分の下着が展示されるって。」
約束されていない未来を語ってガッカリするなんて、ただ疲れるだけで、あまりにも生産性のない会話だとは思うが、アネッタがあまりにもげんなりとしているために浮かんだ意見は飲み込んで、うんうんと少しばかり反応を大きめに言葉を返しておく。
暫くは生産性のない会話が続いていたが、続ければ続けるほど尻尾は緩んで、彼女がすすすと近づいてくるのでやめるにやめれずにいると、ついには彼女の左目付近にある角が太ももあたりに触れた。構えとばかりにぐりぐりと押し付けられると角が刺さって痛かったが、甘え全快の彼女を誰が振り払えようか。
「……うー………、ごめんねぇ、カク。」
「あぁ、別に構わんぞ。」
「……嫌な気持ちになった?」
「…いや、今夜どうしてやろうかと考えとっただけだわい」
「ヒッ」
憂鬱な気分にさせるぐらいなら、脱皮なんてさっさと終えた方が良いに決まっている。そんなわけで今夜脱皮作業を手伝うことにしたわしは「大丈夫、優しくしてやるからのう。」と比較的優しい声色で伝えたつもりだったが、アネッタは少々怯えたような、そんな顔をしていた。