「〇〇、少し背が伸びたか?」
「え?あぁ、そうね、18歳の時に比べたら5cmは上がったかも」
生きていれば摩訶不思議な出来事に遭遇することもあるわけで、両腕を回して私の腰を抱くカクは、ガレーラカンパニーに潜入した際の恰好で、愛おしそうな眼差しで私を見つめて額にキスを落とした。彼は自身のことを18歳で、時間軸としてはガレーラカンパニーへの潜入が始まって一カ月が経った頃だと言っており、つまり、過去からタイムスリップをしてきたと主張した。
18歳のカクは自分よりも年上になってしまった私を見ても嫌がるような素振りは見せず、むしろどこか新鮮そうに私を見つめては「そうか、わしらは恋人になれたんじゃな」と幸福を噛みしめるように小さく零しながらはにかむのだが、その表情の可愛さといったらもう。たまらず私からも彼の腰に腕を回してぎゅうと抱きしめると、18歳のカクはそれはそれは幸せそうに笑むので心臓が痛い。多分、尊いってこういうことを指すものなんだと思う。
「なんか……若いカクは可愛いねぇ」
「五歳も年下ともなるとそのように見えるのか……なんとも複雑じゃのう。」
「そう?でも私きゅんきゅんしてるよ」
「ふは、なんじゃそれ」
どこにときめいておるんじゃ、と若カク。それでも私の言葉を受けたカクはやっぱりニコニコと笑っていて、彼はいまの私を確かめるように頬を撫で、目尻を撫で、手のひらを滑らせて、五年前にはしていなかった金色のピアスに触れた。触れる指先がこそばゆくて少し顔を背けると、カクは目を細めた。
「…んん、くすぐったいんだけど」
「わはは、スマン。見慣れないものがあったからつい。……でも似合っとる、瞳の色と同じじゃな」
まるで口説くようなそれだ。耳朶もしくはピアスを愛でるように親指の腹がピアスと、それから耳朶をなぞると、そのまま撫でていた手のひらは首から顎へと伝い、やがて顎が掬われた。
それが彼の癖でキスの合図だと分かっているのは、彼と付き合っているからこそなわけで、ただ、一つ困ったことがあるとするならば、現時間軸の彼も同時に存在することか。
「止めるんじゃ。……勘違いせんでほしいのォ、わしと〇〇が恋人になったとしてもお前の話じゃないわい。」
その先の行動を拒むように、背後に立った同い年のカクが私の腹に腕を回してから力を込める。ああ、彼の顔は見えないけれど言葉の刺々しさから不機嫌な様子がよく分かる。目の前に立つ若カクは、現カクの言葉を受けて眉間に皺を寄せると、背後に立つ彼を睨みながら低い声で「……いちいち水を差さんと気がすまんのか。」と呟く。
「あぁ、気が済まんな。お前のものじゃなく、”わしの”じゃからな。」
「こうして五年後には恋人関係なんじゃろう?であれば行先は同じじゃ、わしのといっても間違いじゃないわい」
「随分と余裕がないのォ。」と鼻で笑う若カクと、それに対して「それブーメランじゃぞ」と冷めた言葉を零す現カク。前からは若カクに抱かれ、後ろからは現カクに抱かれ、バッチバチに火花が散らす二人を見ながら、なんで二人とも喧嘩をするのだろうなぁとは思うがあえて口には出さない。口なんか出したらどちらか、いや、どちらからも「そちらの味方をするな!」とかなんとかいって怒られてしまうに違いないからだ。
なので彼らに抱かれたまま文字通りに大人しくしていると、にらみ合いを続けていた若カクが私を見て、「……のう、〇〇。〇〇は若いわしの方が良いよな?………若いわしの方が色々と満足させられると思うんじゃが」と、どこか甘えたような声色で問いかける。しかしながらその甘えたような声色とは裏腹に腰あたりに回されていた手のひらが、何かを示すように尻の緩く撫でて丁度尻尾の付け根辺りを指先でなぞるのだから小悪魔のようで。
「ハ、子どもに一体何ができるというんじゃ?〇〇、まさかそこの付き合ってもいない男を選ばんじゃろうな」
それに対抗するように現カクが鼻で笑うと、半ば脅すような声色のまま耳元で囁いて、手のひらが何かを示すように腹を撫で、指先が下腹部をなぞる。「此処に出していいのはわしだけじゃろう?」そんな独占欲を滲ませて。
「えぇ……いや、選ぶも何もどっちもカクだからなぁ…私はどっちも好きだし、選ぶつもりなんてないよー…」
しかしながら、どんなに主張しても私からすればどちらもカクだ。ただ、回答としてはあまりよくなかったのか、ちらりと見上げた彼らは大変不服そうな顔をして、お互いに火花を散らしながらも顔を見合わせると、「………じゃあ答えが出るまで問いかけるまで、じゃな。」「あぁ、望むところじゃ。」とかなんとかいって、私を抱きかかえて広いベッドまで運んでいくのだった。