人間に似た容姿を持ち、竜と成る事のできる竜人族の生き残り・アネッタは、世界政府に保護をされて以来、竜と成る事も、尻尾などの一部を出すことさえも禁じられていた。それは、天竜人に見つかる事で奴隷とされ、利用されることを恐れていたからだ。
しかし、それは突然のタイミングで打ち破られる事になる。
セントポプラを出て二週間後、アネッタの体が突然、前触れもなく小さな竜となってしまったのだ。
「どうしたもんか………」
姿かたちは本来の姿と変わらないように見えるのだが、なんせ小さい。片手で収まるほどに小さなその体は、本来備わった威圧感などはなく、ころんとしていて…なんというか、その、ちょっとしたペットのようで愛らしい。
しかも、普通にアネッタの声で喋るのだから違和感は大きく、どしどしとその場で地団駄を踏むようにステップを踏む小さなドラゴンは、わしらを見上げて「みんなでっっっっか!!」と声を弾ませた。
「お前が小さくなっているんだろう」
「あら、可愛いじゃない。これだけ小さいと…ペットみたいね。」
「おおっ、案外可愛いじゃねーか」
ブルーノがいい、カリファが笑う。ジャブラに関しては手を差し出して、ころんとアネッタを転がすと、五本の指先で腹を擽って、アネッタがこそばゆそうに尻尾を揺らしながらけたけたと笑っている。ああ、完全にマスコット化している。
「アネ」
「んえ?」
その様子を静観していたルッチが、ジャブラに構われているアネッタの口元に豆を寄せる。恐らくはハットリにやっている餌と同じものだろう。それを先の尖った爪が目立つ両手で器用にも取るとあーんと口を開くが、今のアネッタからするとその豆すら大きかったらしい。みかねたジャブラが「ルッチ、お前よぉ…半分に割るとかしてやれよ。気が利かねぇなぁ!」と呆れたように言いながらアネッタから豆を取ると、その場でパキャと割って口元に寄せていた。
「必要あるか?ハットリでさえ食べられるぞ」
「ハットリも時々喉に詰まらせてねーか…?」
「ポォー」
ハットリが気恥ずかしそうに頭を掻く。しかし当の本人・アネッタは口元に寄せられた豆を掴むと、口の中に一気にいれるので、心配になって「アネッタ、丸のみせずに噛むんじゃぞ」というと、アネッタはこちらを見た後に、「ふぁ~い」と豆で膨らんだ頬のまま返事をして、かりこり、かりこりと豆を噛み砕きはじめた。そうして一つぺろりと食べ終えたアネッタは「案外美味しい!」と言いながら仰向けに転がされたままだった身体を捻って起き上がると、でちでちとルッチの前に立って「ルッチ、もう一個ちょーだい」といって強請り豆袋を覗く。
しかし、ルッチの手は意地悪だった。豆を与えることなく袋をすっと遠ざけると、首を傾げるアネッタの顎下を指先で擽り、そのまま後ろにころんと転がせばジャブラを真似るように腹を擽っていた。
「みんなわたしのお腹に夢中だな……?」
アネッタがもみくちゃにされながらぽつりと呟く。
さて、これからどうするか。そんな議題を真剣に考え始めるのは、もう少しアネッタの身体を堪能した後になるかもしれない。
海も眠る深夜帯。そろそろ寝ようかと布団に潜り込んだタイミングで、かりかりと戸を引っ掻くような音が耳に入る。ああ、やっぱり。そう思って「開いとるぞ」と声を掛けると、あらかじめ少しだけ開いていた隙間から、するりと小さな竜が入ってきて、翼を細かく動かしながらわしの枕元へと降り立った。
「どうした」
わしは寝転んだまま、枕元に降り立った竜の顎を指先で擽る。竜はこそばゆそうに目元を細めていたが、硬い岩のような鱗に覆われた頭をごつごつと摺り寄せると「一緒に寝たい…」としおらしく強請るので、竜に、いや、アネッタに滅法弱いわしは断ることも出来ずに「甘えん坊じゃのう」と笑った。