キスを強請って

 久しぶりに被った休日。しかし、外は生憎の雨と言う事で出かけることはせずに部屋で過ごす事にしたわしらは、特に会話するわけでもなく、ソファで身を寄せ合ってわしは読書を、〇〇はニードルフェルトとかいったか、ふわふわの毛玉に針を刺して何かよくわからんものを作っていた。

ただ、読書も数時間と立てば何となく集中が切れてしまうもので、視線を本に並ぶ文字から彼女へと移すと、眉間に皺を寄せながらよくわからない黄色い塊を見つめていた。

「ねぇカク…これ何に見える?」

 また難しいことを聞く。わしの方が聞きたいわいという素直な言葉を飲み込んで、その黄色い物体を見て「……星かのう」と零すと、〇〇は大真面目な顔で「これキリンなんだよねぇ」というものだから、わしは大きく噴き出して笑い声をあげてしまった。だって、星と勘違いするようなものがまさかキリンとは誰も思うまいて。
 わしが腹を抱えて笑っていると〇〇は、いじけたように「笑いすぎ」と唇を尖らせるので、謝罪ついでに彼女の唇に触れるだけのキスすれば、彼女は瞬きを繰り返して硬直してしまった。

「のう、〇〇。たまには〇〇からもキスをしてほしいんじゃが。」

 硬直を解くように彼女に向けて、躾でもない、恋人としてのお願いを零す。勿論、彼女からしてくれないからといって別に不満があるわけじゃないが、折角の休日だ。たまには普段しないことをしたって許されるはずで、「えう、」と言葉を詰まらせる〇〇を見つめたままでいると、彼女は視線を彷徨わせたのち、小さく小さく「でも、恥ずかしいというか」と言い訳を零した。

 わしらは成人した大人で恋人関係だ。キスだってそれ以上のセックスだって散々やったし、時には彼女から強請るよう仕向けた事もある。だから初めての行為というわけではないのに、彼女は恥じらいを捨てきれないらしい。まぁそれが良いから、こうしてちょっとした”意地悪”をしているのだが。

「そうか……わしも〇〇とキスをするとき恥ずかしいんじゃが、〇〇はそれでもしてくれないのか。」

 わしは恥ずかしい思いしとるんじゃけどなーとわざとらしく言うと、「絶対嘘でしょ。」と突っ込みが返ってきたが、それでも彼女はわしからの言葉を受けて多少なりとも罪悪感を抱いてくれたようで、サイドテーブルに針とキリンらしい塊を置いてから、わしを見つめた。

「………カク。せめて、その…目、閉じてよ。」
「嫌じゃ。」
「?!」
「わはは、精々頑張ることじゃな。」
「じゃあ私から隠すのは?」

 言って彼女は自分の姿を隠すようわしの目元を手のひらが覆うので、無駄な抵抗だと彼女の手首を掴んで下に降ろしてやれば顔を赤らめた彼女がわしをじとりと睨みつけたが、そんな赤い顔で睨まれたところでわしの加虐心を虐めるだけなのはいまの彼女も知っている筈で、空いた片手で彼女の頬を撫でると彼女は一度だけ頬を摺り寄せたのち、額へと口づけた。

「…まさかこれで終わりとは言わんじゃろうな」
「わ、分かってるってば」

 絶対にこれで言い逃れしようと思ってたな。と思いつつも、仕方なしに「ん」と瞼を閉じてやれば、彼女はまるでわしがいつも彼女にするように、額や頬、目尻、などに触れるだけのキスをするものだから、少しばかりこそばゆさと、愛らしさに「んん」と声を漏れてしまった。
 それから、折角こんなに一生懸命に愛らしいことをしているのを見ずに目を瞑っているのは勿体ないかもしれないと瞳を開けば、はあっと熱を帯びた瞳で吐息を落とす彼女がわしを見つめて、唇へと口付けた。触れる柔らかい感触に、満たされるような感覚。自分からキスをするのとは、何かまた違う感覚にどうにも癖になってしまいそうだと目を伏せたわしは彼女の腰に腕を回して、唇が離れたタイミングで「もう一回。」と可愛らしく強請ってみたが、結局は彼女の要望に応えてわしから唇を重ねることになったのだった。