悪い虫

 日直で日誌を書かなきゃいけないから先に帰ってて。昼休みにそう言われてから妙な胸騒ぎというか、嫌な予感が続いている。
 〇〇の言うとおり先に帰るかと下駄箱に向かったものの、どうにも気になって、わしは踵を返して彼女のいるクラスへと足を向けると、嫌な予感は的中した。よりにもよってあのサボと一緒にいたのだ、しかも二人っきりで。
 〇〇はわしの顔を見つめると、金色の瞳をとろりと緩めて「カク!迎えにきてくれたの?」そう呟くが、彼女はいつものポニーテールの髪型ではなく、髪を下ろして何やら可愛らしい髪型をしている。生憎、女のヘアースタイルに興味のないわしにはそれがなんという髪型で、なんと表現すればよいのかは分からないが、随分と凝ったその髪型は、恐らく誰かにやってもらったのだろう。
 例えば、不似合いな女物の櫛を持ったサボとか。

「……あぁ、日誌を書く間ぐらい待てるわい。」
「そう?ありがと、あともう少しだから待ってて。」

 そういって〇〇は視線を落として日誌へとペンを走らせる。
 その間、ちらりと隣の男へと視線を向けると、サボはにこりと、人懐っこさとはまた違う笑みを向けて「随分と過保護なんだな。」と呟いた。

「ふん、お前のような者が多くてのう。全く困ったものじゃわい。」
「なるほど、そうやって〇〇さんの選択肢を無くして自分だけにしているのか。」
「なんじゃと?」

 サボの言葉は、刺々しさとは裏腹に酷く穏やかだ。それが余計に腹立たしくてじとりと睨むと、日誌にペンを走らせていた〇〇が「もー二人とも煩いんだけど」とじとりと此方を睨むので、それ以上わしらは何も言えずに小さく息を落とした。

 二人きりになった帰り道、足を止めた〇〇が「ねぇ、この髪型可愛い?」とわしを見上げながら問いかける。
 まぁ、サボが触れたものだと考えると腹立たしいが、確かにいつもとは違う髪型の彼女は、なんだかより可愛らしく見える。

「あぁ。」
「本当?」
「本当じゃ。」
「………へへ。」

 純粋に、手放しに可愛いと言ってあげる事も出来ずに零した言葉は、少しばかり素っ気なかったかもしれない。それなのに〇〇ときたら、にまー、と嬉しそうに頬を緩めるので、彼女の顎をくいと上げてそのまま触れるだけのキスを贈ると、「………可愛いが、少し癪じゃのう」そう言いながら空いた片手で髪を纏めるゴムに爪を引っかけて、ぶつりと断ち切った。
 〇〇は「あっもう!折角可愛くしてもらったのに」とかなんとか怒っておったが、無防備にも男に触れさせる〇〇が悪いに決まっている。