立ち上がる砂埃が風に流された頃。其処にあった筈の建物は無くなり、辺りは綺麗な更地になっていた。代わりに焼け焦げた塊を踏みしめて辺りを見渡した私は、瓦礫から伸びる腕に気付いてそろそろと其方へと足を伸ばす。焦げ臭さに混じる、むせ返るほどの血の匂いは爆発時に飛散した人の匂いだろうか。まあなんにせよ、瓦礫から伸びる腕は飛散したものじゃなさそうだ。持ち上げた瓦礫を適当にそのあたりに転がして「……おーい、生きてる?」と腕から続く本体へと声を掛けると、砂埃の奥でぎらりと獣のような瞳が光ったような気がした。
「……おめーが馬鹿やったお陰で瀕死だ」
水分を失ったようなしわがれた声に、思わず目元が緩む。体を伏せたまま此方を睨む彼の状況を見るに、五体満足であれど出血や怪我の程度は宜しくないようだ。それに人一倍短気なこの男が、怒鳴る事も喚く事も無く、静かでいる事も少し気にかかる。伏せた体を起こすべく腕を掴んで引き上げてやると、ジャブラは眉間に皺を寄せながらううっと短く呻く。普段は綺麗に整えた髪も今はすっかり乱れて砂を纏っており、長い前髪から覗く瞳が眼光炯々と私を捕らえて「目当てのものはあったのか」と問いかけた。
「ええ、お陰様で」
「……そーかよ」
愛想無く言って、ジャブラは舌を打つ。その舌打ちに特に意味は無いように思うが、一方で傷だらけの彼の顔色はどうにも悪いように思える。その理由を探るべく、その場で膝を折り、割れたサングラスの破片が散らばる彼の太ももの上に手を置いた私は「動けないのと、その顔色の悪さは関係してる?」と問いかける。ジャブラは言葉を詰まらせていたが、可愛げも無く面倒臭そうな顔を見せるあたり、まぁ、恐らくはそれが答えなのだと思う。
傷の状態はどれもかすり傷のようなものばかりだった。
致命傷となるような傷は見受けられなかったが、ふと肩部分の服が裂けている様子が目に映り、断りもなく前を開いた上着を外側に引くと「おめーは痴女か」なんて文句が聞こえた気がしたが、それは無視を決め込むとして。
露出した肩には一線引かれたような傷があり、傷口は、輪郭を描くように淡く蛍光している。恐らくはこれが毒だろう。成分を取らないことには毒の種類は断定できないが、ジャブラの呼吸が安定している辺り、致死性のあるものというよりも、麻痺効果を持たせたものだろうか。蛍光している部分を見ながら傷の端に指を這わせた私は、ぐっと親指を沈めたが、ジャブラは息苦しそうに呻くだけで痛みを訴える事はなく、感覚が麻痺している様子が見てとれた。
「……ジャブラ、ポイズンリムーバーは?」
「持ってるわけねぇだ狼牙」
「まぁ、それもそうか。……じゃあ、我慢してよね」
「あぁ?」
「毒なんて早くに抜いたほうがいいに決まってるでしょ」
指先がジャブラの傷口を滑る。察しの良いジャブラは、それだけで直ぐに意図に気付いたようで、私を睨みながら「……後で覚えとけよクソガキ」と呟いたが、力ない言葉に迫力なんてものはない。
「カクに守ってもらうもん」
「可愛くねえなァオイ」
「なんとでも」
言って、身を寄せた私は、「敵が来たら教えて」とだけ伝えて蛍光する傷口を食む。それからまだ浸透しきっていない毒を吸い出すと、ジャブラは痛みに呻き、体を強張らせながら息を落とす。ただ、これが正当な理由に基づいての行動であると理解しているのだろう。ジャブラからの抵抗は無く、身を任せるように痛みを堪えるジャブラからは、ぎり、と歯を軋ませるような音が響いていた。
そうして毒を吸い出したあとは、血の味とはまた異なる苦みを感じながらも適当な場所に毒が混じる血を吐き出す。足元に落ちた血液は確かに赤くはあるが、油が浮いたような模様を作る蛍光色を見るに、吸い出しには成功したらしい。
であれば視線をもう一度ジャブラへと。完了報告なんてものは無かったが、額に汗を滲ませるジャブラが「これならポイズンリムーバーの方がマシだな」と嫌味を零す。折角毒抜きをしてやったのになんて奴だと思ったが、ジャブラは血色の悪い顔で私の顎を掴むと、親指の腹で端に残る血液を唇に伸ばして「……ハ……、」と特に何を言うでもなく、乾いた笑いを落した。