竜の生態

 森林奥深く。木々から伸びる枝葉の隙間から、暖かな陽の光が落ちて足元を照らす。丸に四角に三角に。どれも少しずつ歪ではあるが、枝葉の合間を縫うようにして落ちた光芒はスポットライトのようで、そよそよと風で揺れる葉の動きに合わせて形を変え続けている。
 小鳥のさえずりと、風に揺れた木々の音。大自然の鼓動を耳に、切株に腰を下ろしてスケッチに勤しむカクは、画板に差し込んだ紙へと鉛筆を走らせる。

「……アネッター、寝るんじゃないぞ」
「んえー……ぃ」
「いかん、半分寝とるな……」

 スケッチ対象の大きな竜が、岩を纏うその厳かな見た目には似つかわしくない声で言葉を返す。見れば大きな体をうつ伏せに倒した彼女の瞳は閉じており、体を覆う岩には小鳥が止まって羽を休めている。

「……グルルル………」

 幾ばくもなく、遂に聞こえ出した寝息。体が大きい分、息を吸うと背中が大きく膨らんで、猫のように喉音を鳴らす。これだけ体が大きいと少々威圧的に聞こえはするが、物珍しそうに樹木のウロから顔を覗かせたリスたちが、頬袋にありったけの木の実を詰めて降りてくると、岩の上でピクニックを始めるではないか。羽を休める小鳥に、歌う小鳥。物珍しさに恐る恐る近付く兎と鹿。

 なんだか童話のような光景だと、つい笑いが落ちてしまった。

 そうして暫くのスケッチの末、画板に紙を差し込んだまま立ち上がったカクは、彼女のもとへと向かう。アネッタは相変わらず喉を鳴らしながら気持ちよさそうに寝ており、背中から伸びる岩に足をかけて登ると、ピクニックを楽しむリスたちが驚いた様子で木の実を頬袋に詰め始める。なんだか申し訳ない気持ちになって、「あーあー、すまん、ちょっとここを通らせてくれ」と断りを入れて、彼ら小さなものたちを踏まないよう気を付けながら岩を渡って、彼女の頭に上ると、其処でようやく腰を落とした。

 しかし、彼女は見れば見るほど不思議な生き物だ。画板に挟んだ複数のスケッチは、全て同じ構図で書いているのに背中を纏う岩は、どう見ても形を変えており、過去分と今日描いたものを比べても大きさや長さが異なっている。

「……不思議じゃのう……」

 今日採取した岩の鱗だってそうだ。衝撃や生え代わりで落ちた岩のごく一部はジオードになっており、空洞になった内側には美しい結晶を生えている。地殻変動による高温高圧によって出来る水晶の成り立ちを考えると、竜人族特有の病気である”竜の暴走熱”の火熱が水晶を作り上げたのだと推測出来るが、それにしたって成長をする岩を纏う彼女は、自然にほど近いように思う。それこそ、悪魔の実を食べたことにより海に嫌われた自分とは大違いだ。

 そんなことを思いながら、今回は鶏のとさかのように上に伸びた角に凭れる。普段纏っている岩は背の低い岩が多いだけに上手く距離感がつかめない彼女は、多くの木に角をぶつけては「もおおお」なんて憤慨していたが、こうして背を預けるには丁度良いサイズ感だ。それに、とさかのように伸びているのも、どことなく間抜けで面白い。

 そよそよと、そよそよと。穏やかに拭く風が心地よく、差し込む光芒が足元を照らす。小鳥たちのさえずりも、風を受けて、さざ波のように寄せては返す葉音もなんだか心地よくて欠伸をすると、それに続くようにして大きくその場ががたがたと揺れて「ふわぁぁ…」と眠っている筈のアネッタが大きく口を開いて欠伸を溢した。どうやら竜も欠伸が移るらしい。カクはふっと息を漏らすようにして笑うと、頭の後ろで手を組んで瞼を閉じた。

 微睡の森の奥深く。そこは穏やかな時間が流れていた。