クリスマスのあとに

「おかしい……」

 魔女のベファーナやサンタクロースが、子供騙しの嘘である事を知っているカクは幼馴染の女を見ていた。女は気難しい顔でちんまりとした靴下を見る。靴下は親指のあたりが破れたもので、サイズアウトして不要になったものだと聞いてはいるが正座をして靴下を睨む顔は中々の厳しさを持っている。……まぁ、なんとなく考えている事は分からなくもないが、模型を作りながら尋ねると彼女はもう一度繰り返すように言った。

「おかしい……」
「どうした」
「おかしいの」
「何が」
「アネはよい子なのにプレゼントが入ってない……」
「よい子じゃないんじゃろ」

 その言葉に驚くアネッタ。自分がよい子であると信じ切っているらしい。
 なんともまぁおめでたい頭だが、続く言葉は疑問ばかりだ。

「……でっ、でも、カクが入ってないのはおかしいでしょ?」
「うん?」
「だってカクはよい子なのに」

 おっとこれは予想外。彼女は自分がもらえない事だけを嘆いているのではない。自分とカクが貰えないのは、もはやベファーナしかりサンタクロースがおかしいのではと疑問を抱いているのだ。
 疑問を抱くほど自分たちはよい子であると思っているのは、先の通りおめでたい頭なのかもしれないが、カクまでよい子であると信じ切っているのは確かな好感度の現れか。カクは手にした模型のフラッグを落とすと、それを拾って渡してくるアネッタを見つめながら首を傾げた。

「わしはよい子なのか?」

 もうこの年で暗殺だって、人には言えないことばかりしてきたのに?

「?よい子にきまってるよ、だっていつもアネのことたすけてくれるもん!」

 ごはんをとられたときにはわけてくれるでしょ、ころんだときにもたすけてくれるし、この間はおみやげもくれたし……指折り数えながらの良い事自慢は長い。なんだか聞いているうちにお腹の奥底がこそばゆくなって、カクは眉間に皺を寄せると彼女は不思議そうな顔で覗き込んで、モミジのような小さな手で頬を包み込んだ。

「カク、おかお赤いよ?」
「っう、るさいのう、別にええじゃろ。それにベファーナやサンタは来んでもええ」
「……?なんで?プレゼントもらえるのに?」
「別に欲しいものなんてないしのう」
「……カク、つよがらなくていいんだよ」
「強がっておらんわい!」


 そんな他愛のない話から一週間が経ったあと、彼女は足を折った。
 原因は高所からの落下。生い茂った木々がクッション代わりになったこと、それからジャブラが救助に当たったお陰で骨折程度で済んだが、全身にある細かな擦り傷は痛々しい。カリファから松葉づえの使い方を教えてもらう間、隣で面倒臭そうな顔をしているジャブラに向けて何があったのかを尋ねると、彼は傷のある目を細めて呟いた。

「お前に花をやりたかったんだと」
「花?」
「あぁ。このグアンハオの塔は石積みだろ?その隙間に生えた花が夜に光るってんで、それを見せたいってあの馬鹿がおれに頼んできたんだよ」
「なんて」
「花を取る間一緒にいてくれって」
「それがどうして、あんな大けがに……」

 花を摘むくらい造作もない筈。それがどうして見守り係までつけたのだと疑問を抱いたが、先のとおり彼女は高所からの落下で骨を折った。つまりはその花は高所にあったのだろう。それがよじ登ったのか、それともご自慢の翼を使ったのかは分からないが……なんとも馬鹿げた話だ。

「ま、お前は笑って受け取ってやれよ」

 それを見透かしたようにジャブラが言う。
 カクは少しだけ間を開けて尋ね返した。

「怒るなと言うとるのか」
「そりゃあそうだろ、説教なんか散々されたあとなんだしよ。それにあの花はオメーのために摘んだもんだ」
「ワシャそんなの頼んでおらん」
「頼んでねえのに危険を冒してまで摘みにいったんだよ、あの馬鹿は」
「……」

 彼女はどうしてそこまでするのだろう。別に取ってきてほしいといったわけでもない。花が好きだとも言ったことはない。それなのに、どうして危険なことまでして。
 時折、彼女のことが分からなくなる。それが人の形をした竜であるからなのか、それとも精神的に幼いからなのかは分からない。時折予想だにしないことをやってのける彼女は制御不能で、そのたびにイラついてしまう自分がいる。
カクはさっそく松葉杖を使ってひょこひょこと足を浮かせながら此方にやってくるアネッタを受け止めながら尋ねた。

「あのね、カク。わたし――」
「どうしてこんな無茶なことをしたんじゃ」
「え?」
「おい、カク」
「わしが、危険なことまでして花が欲しいと言ったか?」

 誉めてやれと言ったジャブラが息を吐き、口を挟む。それでも構わずに自分のなかにある疑問を投げかけると、彼女は一瞬困惑したような表情を浮かべたあと、もじもじと自分の服を掴んで言葉を濁らせる。「ええと」だとか「その」だとか、そうやって落ちる言葉は多少なりとも罪悪感というか、怒られることをしてしまったということの現れだったのかもしれない。
 それでも沈黙を続けて答えを待っていると、アネッタは長い睫毛を上に向けて小さく呟いた。

「……カクが、船のマストにある模様が光ったら恰好ええっていってたから……だから光るお花で絵の具を作ったらいいって思ったの……」

 確かに、花をすり潰してそこで出た汁を使い乾燥させれば花絵の具にもなるが、蛍光するかまでは定かではないし、何より、これっぽっちの花では絵の具にするほどの量にもならない。カクは包帯をぐるぐると巻いて浮かせたままの足を見た後、ふっと息を吐き出すと「お前は馬鹿じゃな」と力なく零した。

「これっぽっちの花じゃ絵の具にはできんぞ」
「……そうなの?」
「あぁ、もっと沢山ないと絵の具にはならん」
「そっかぁ……ごめんねぇ……」

 見える落胆の色。こんなに頑張ったのに!と怒ってもよさそうなのに落胆の色が大きいのは、それだけカクを想っての行動だったと言うことだろう。……だがしかし、どうにも彼女がしょぼくれている姿には弱い。
 カクは小さく息をついて、彼女が骨を折ってまで手に入れたと言う花に視線を向けると栞にでもしようかと代わりの代替案を向けて、その先にある笑みに頬を緩めた。