おてんば坊主は混血児!②

 

 陽が真上に上る時間帯。青々とした芝生が広がる公園で、カンッと軽い音と共に、バトンのようにくるくると縦に回転して飛び上がった木剣が後ろに落ちる。武器を失ったハルは眉間に皺を寄せて「父さんはずるい!すこしは手をぬいてくれたっていいじゃろう!」とは言ったが、それでは組手にもなりやしない。
 向かい立つカクは息子のものよりも長い木剣を持ち上げて、自分の肩へと乗せる。

「ワシャまだ五才なのに!」

 そう言って地団駄を踏んで感情を露わにするのはなんとも五歳児らしいが、グアンハオに入島したにしては随分と愚直すぎる。自分たちがいた頃よりも少しばかり子供たちへの待遇が良くなったのかとも思ったが、もしかしたら素直な性格の母親に似たのかもしれない。
 まぁ、なんにせよ、こうして息子と共に過ごす日々と言うのはどうにも面白くていけない。数分程度のお遊びのつもりが、気付けば三十分、一時間と経っており、そのあいだ木剣を向けては弾かれることを繰り返していたハルは、すっかりと不貞腐れていた。
 ただ、それも「わあ!」なんてアネッタの声が意識を引けば二人の視線は其方へと向くことになるわけだが、まさか木陰で昼ごはんの準備をしていた筈のアネッタが、でかトカゲを見て驚いているとは思わなかった。

「わあ……お昼ご飯が……」

 呆然と零すアネッタの前で、四足歩行でのそのそと歩くでかトカゲが、サンドイッチやリンゴなどが入ったバスケットに顔を突っ込んで鼻先を押し付ける。小型犬ほどのサイズを見るに、恐らく彼はコモドドラゴンの子供だと思うのだが、あまりにも堂々とした泥棒だ。バスケットに入った林檎を引っ張り出した彼は、ゆっくりと咀嚼を繰り返しており、アネッタがつんと指で小突いても動じることがない。

「おおおおお、かっこいいのう…!」

 好奇心旺盛なハルが目を輝かせながら言う。それから拾い上げた木剣を手に近付いて、母親と同じようにツンツンと小突いた後には、木剣を落としてから後ろから抱き上げる。抵抗なしのコモドドラゴンはぬいぐるみのように持ち上げられたが、「父さん!母さん!捕まえた!」と興奮を隠せない様子で声を弾ませるハルといったら。

「ありゃ、ハルが捕まえちゃった」
「おうおう、そりゃ凄いがどうするんじゃそれ」
「飼う!」
「え?!」

 飼う?
 このコモドドラゴンを?
 予想外の言葉にアネッタは目を丸くしたが、確かに自分も子供のころに同じように彼を見かけたならば、同じことを言うかもしれない。ただ、いまは一カ月間のバカンス中なのであってペットを探しにきたわけではない。コモドドラゴンを見るに、特にスカーフや首輪といったものがないことから野生だと思うのだが、それにしたってペットにするには大きすぎる。もっと、こう、ハットリのように小さければ許してあげられたのかもしれないのに。

「だってかっこいいじゃろ!それにここで出会えるなんてうんめいじゃ!」
「運命かなぁ」
「うんめいじゃ!」
「しかしのう、こいつはでかすぎるぞ、流石に」

 苦言を呈す父を見て、聡明な父によく似たハルは許可が下りないとすぐに察したのかもしれない。彼は眉間に皺をよせる。ついでに口をへの字にし、不満げな顔をしたあとには抱き上げたコモドドラゴンをぎゅっと抱きしめて「やじゃやじゃやじゃ!!わしが飼うんじゃ!」と五歳児らしく、思い切りごねてみせた。

「いやいやいや、一カ月で帰るんだから無理よ」
「じゃあこいつをグアンハオに連れていく!餌もやる!」
「グアンハオはペット禁止じゃない?!」
「いや、ハットリという前例があるからのう」
「わしもルッチとハットリみたいにこいつを相棒にするから大丈夫じゃ!!」
「だーめ!」
「やじゃーーー!!」

 ハルは察しが良くて、比較的利口ではあるが、やはり五歳児は五歳児らしい。彼は無抵抗のコモドドラゴンを抱きしめたまま右に左に体を揺さぶって、さらには地団駄をして、ごねりにごねて「エサもやる!」「世話もちゃんとする!」「グアンハオに連れていけんかったら母さんが世話をするから!」と言っていた。最終的には父が威厳を見せて、命とはなんたるかを説いたが、なぜかその日からコモドドラゴンが屋根裏部屋に居ついたのは、まぁ、そういうことだと思う。