天然パーマは雨の日に爆発する(初稿)

 しとしとと雨は降り止まず梅雨時期に入った頃、緩い天然パーマの気質を持った私の髪は、湿気により爆発したように広がっていた。髪を結んでいようが下ろしていようが、二倍近く毛量が増えたのではと錯覚する爆発具合にジャブラは目を瞬かせた後、「ぎゃーっはっはっは!おめェなんだその頭は!」と私の頭を指さしながら小馬鹿にしたような笑い声を上げた。

「し、仕方ないでしょ、雨の湿気でこうなるの!!」
「雨の、雨の湿気でそうなんのか…ッ!ひー!カリファとは大違いだな!」

 言い返したところで綺麗なストレート髪の彼には理解出来ないのだろう。よりにもよって美人で髪の毛が大爆発する事なんて無いカリファと比べたジャブラは、ひいひいと腹を押さえながら笑い転げるばかりで話にならない。私よりも十歳以上年上の癖になんて男だ。いっそのこと叩き切ってやろうかと沸々と湧き上がる怒りに肩を震わせながら、腰に下げた刀を抜こうと手を回したのだが、その瞬間、自分の体が浮くような感覚を覚えて後ろを向けば、私の脇の下から腕を通して、抱えるように羽交い締めにする幼馴染――カクがいた。

「どうどう。なんじゃ、ジャブラに〇〇はまーた言い合っとるのか。」
「だってジャブラが私の髪を見て笑うんだもん。」

呆れ混じりに呟くカクを見やり、言い訳混じりに言葉を返すと、カクはいまだ笑い転げているジャブラを見てため息を吐いた。

「全く、大人気ないのう…。」
「…どうせ、カクも変だって思ってるんでしょ。」
「思っとらん。別に変だなんてわしは一言も言っとらんだろう」

 怒りの収まらない私は、最低なことにカクに向けて八つ当たりに近い言葉を吐いたが、思いの外ずばりと言い切られたので思わず目を丸くしてしまった。ただ、どうにも私は単純なようであれだけ煮えたぎっていた怒りも、カクの言葉ですっかり熱が冷めてしまった。
 刀に向けた手を下ろすと、カクもまた私が落ち着いたと思ったのか足元に降ろしてくれたので、私は勢いよくカクの方を向いて体を寄せると「本当?」と問いかけた。
「ああ、犬みたいだと思っとる。」

 一瞬、時が止まる。
 カクはにっこりと笑い、後ろでジャブラが「ぎゃーはっはっは!」と笑う声が響いた。

「……それ、けなしてる?」
「けなしとらん!褒めとるじゃろう!」
「どこがよ!犬って!」
「犬は褒め言葉じゃ!」

 犬が誉め言葉に使われるなんて聞いた事がない。
 そりゃあ伸ばした髪は爆発はしてるし、少なからずこんな状況で色気はないかもしれないが、それにしたって犬だなんて。
 そもそも雨の日に爆発しやすい頭なのに、こうやって髪を伸ばしたのは彼が長い方が好きだと言ったからじゃないか。とにかく聞き捨てられないと猛抗議したが彼は否定するばかりで、幼馴染の、よりにもよってカクから否定を受けた私はじわじわと目頭が熱くなる感覚を覚え、ついには涙が溢れてしまった。
 そして私が突然涙を零したものだから、普段は私相手に狼狽えることのないカクが、あまりにも分かりやすく動揺を見せた。

「ど、え、な、なぜ泣くんじゃ…」
「…カクもジャブラみたいに馬鹿にするから」
「馬鹿になぞしとらん!」
「だって犬みたいって言ったじゃない!」
「だから、犬みたいに可愛いじゃろうが!」

 カクの声があたりに響き、しんと静まり返るわたしたち。
 あのジャブラでさえも目を丸くしている。
 長い間が空き、私が「は、え?」という間の抜けた言葉が落とすと、カクも我に返ったように帽子を目深に被りながら小さく零した。

「だ、…だから、その……犬みたいで可愛いと思っとる。…ああもう、泣き止んでくれ。」

その後、死ぬほど笑い転がっていたジャブラが「はーあ、アホくせ。」と呆れたように呟いたのは言うまでもない。