「え?今日が誕生日?」
「あぁ、いえ、今日じゃなくて二十三日です」
「二日前じゃねーか」
青天の霹靂、足下から鳥が立つ、根耳に水。
どれだけ言葉を並べようが今の驚きに勝る言葉はあるまい。時計に視線を落とせば、時刻は二十三時過ぎ。誕生日は二日前だと言うが、ほぼ三日前ではないか。言ってくれりゃあ、女子受けの良い洒落たもんではなくとも、飯を奢るとかそういった事は出来ただろうに。
そう思いはしたが、そもそもこんな時間まで俺たちが共にいる理由は厄介な捜査を任命されたからで、俺からの指摘を受けた__は「いつの間にか過ぎてたんですよね、ここのところ忙しいですし」といって手元にある捜査書類へと視線を落とす。まぁ、確かに、__の言う事は尤もだ。この捜査に任命されてからというものの、俺たちは残業続きで家には寝に帰るだけの生活で、余裕なんてものはない。
ただ、気付けば終わっていたという状況が妙に寂しく思えて、手に持っていた捜査書類をまとめて「__、今日はこれで仕事上がるぞ」と言うと、どうしてですかという驚きの眼差しが向けられる。普段キリの良いところまでやるようにと教え込んでいるせいで、このタイミングでの打ち止め宣告に違和感を覚えたのだろう。全く真面目な後輩だ。
「…まぁ、今日くらいは休んでもいいだろ。どうせこの書類に期日は無いんだ、また明日しっかり寝て頭をしゃっきりとさせてからやろうぜ」
「……いいんですかね」
「……ま、それに今日は最強寒波だって言うしな」
「…私、今日帰れないと思ってここで寝泊まりするつもりで来たんですよ」
「お前……意外と根性あるよなぁ」
いや、まぁそう育ててしまったのは、先輩である俺の責任かもしれないが。
「あー……それでよ、このあと、お前さえ良かったら飯でも食っていかないか。この時間帯だからファミレスぐらいしか開いてないだろうが好きなもの奢ってやるよ」
そういうと__は一体今日は何なんだとしぱしぱと目を瞬かせていたが、先の話から意図を理解したのだろう。瞬きを繰り返していた瞳はとろりと和らいで言葉を紡ぎ、俺もまた同じように目元を緩めた。
今日は最強寒波とかいうとても寒い日で、外に出ると眠気すら凍らせるような冷たい風が俺たちを襲ったが、妙に心はぽかぽかと温かく、ファミレスでの食事は長く、穏やかに続いた。