幸福があるとするならば

 カクは時折、波風にも揺るがない瞳で真っ直ぐに私を見つめる。普段は口煩くて呆れた眼差しを向ける事が多いだけに、真っ直ぐに見つめられると耳からジワジワと熱が生まれて、お腹がこそばゆくなる。だから私は視線を泳がせるものの、彼はそれを許しはしない。顎をクイと掬いながら向けた眼差しは、一体なにを考えているのだろう。分からない一方で触れるだけの口付けがこそばゆく、離れた唇が頬に触れ目尻に触れると、そのままこめかみにある角の根本へと口付けた。

「あ……」
「うん?」
「う、ううん」

 昔、竜人族に関する文献を見て知った事がある。彼らは愛情表現の一つとして角へ口付けるのだと。その時は恋人なんていなかったし、付き合った経験すらなかった子供だったので別にどこに口付けたって変わらないのではと不思議に思っていたが、実際にされてみると他とは異なる幸福感がある。……この感覚が竜人族特有のものかは分からない。しかし、もう少しされてみたい。アネッタはそれをうまく説明も出来ず、ただ甘えるように向けられた手に頬を寄せると、カクは瞳を細めるようにして笑み、もう一度根本へと口付けた。

「……フフ、可愛い顔しおって」
「ん……カクが可愛いって言うの珍しいね」
「うん?……あー……まぁ、そうじゃのう」

 真っ直ぐに見つめていた瞳が、僅かに揺らぐ。きっと、無意識に出た本心なんだ。その瞬間、心が満たされるような感覚が広がって、背の高い彼に合わせるよう背伸びをしてキスをしたのは喜びと愛情の表れだったように思う。カクは突然のそれに驚き、どんぐり目を瞬いていたがその後に向けられた笑みはいつもよりもとびきり嬉しそうで、お互いに笑い抱きしめ合うと胸に頭を埋めた。

「あー……幸せじゃのう……」
「ふへへ……愛されてるなぁ……」
「そりゃそうじゃろうて」

 ちゅ、ちゅ、と角に贈られる口付けがこそばゆい。その一方で、こうやって全面に出して愛情を示してくれる彼もまた珍しく思えて、つい欲張る気持ちが溢れてしまう。

「好きっていってくれないの?」

 その言葉に、何を言うわけでもなく目尻と口角に皺を作って笑む。その眼差しは暖かく、とつぜんお姫様抱っこで抱きかかえたカクはベッドへと連れて行き、そっと下ろした先で囁いた。

「それは、このあとに」