ん、やっぱりお前に似合うのう。
そう言って、誕生日でもないのに贈られたピアスを揺らして一人ウォーターセブンを歩く。雫型のゴールドピアスは弾む足に合わせてチラチラと煌めいて、ピアス一つでショーウインドウに映った顔回りがパッと華やいで見える。けれど、それ以上になんだか落ち着かず耳に熱を感じるのは、このピアスを贈られた時にカクの手が耳に触れてからだったように思う。
「……いつもと変わらないはずなのに、変なの」
時折、カクを見ていると胸がドキドキとする。日に焼けた手が肌に触れると妙に落ち着かなくなってしまい、アイスバーグさんにもしかしたら心臓の病気かもしれないと相談した時には笑われてしまったけれど、これが心臓病じゃなければ一体なんだと言うのだろう。ひんやりと冷たい両手で頬を包み込み、ゆっくりと息を吐く。遠くから聞こえてきた会話は雑貨屋から出てきた少女たちのもので「プレゼントのお返しに便箋を選んだの」「私はシールセット!」という言葉が弾む。
それを聞いて、目から鱗が落ちる。そうか、プレゼントにはお返しをしなければいけないのか。いつも無駄遣いをするなと言われているだけに思いつかなかった。今日はとくに彼の誕生日でも無いし、それらしい行事も無い。けれど、プレゼントのお返しならば正当な理由になる。であれば、このお返しに何か買ってあげようかな。
浮かれた考えから、少女たちが出て言った雑貨屋に入れ替わりで入ると、ドアにつけられたベルが小気味よくカランカランと音を立てる。
その先で、顔なじみのおばさんが笑顔で出迎えてくれた。
「あら、いらっしゃいアネッタちゃん」
「こんにちは、少し見ていってもいい?」
「勿論さ、今日はなにを探してるんだい」
「うーん特に考えてなくって」
「あらそうかい、それじゃあゆっくり見ていって」
おばさんは引き際をよく分かっている。これが何年、何十年と店を続けるコツだろうか。押し付けの無い接客に感謝しながら店内をぐるりと見渡す。一等地に建てられたこの雑貨屋は文房具から生活雑貨、観葉植物と幅広く取り揃えており、試しに観葉植物を見てみたけれどあまりピンとは来ない。
であれば文房具かと見てみるが、そもそも文房具程度なら彼も持っている。そんなことを考えていると、頭がいっぱいになってしまい近付いてくる気配に気付けなかった。
「アネッタ?」
突然背後から声が聞こえて振り返ると、そこにはカクが立っていた。
「カク」
思わず、動揺して声が上擦る。カクは不思議そうにしていたが、棚に手を向けて身を近付ける彼は無遠慮だ。首筋に顔を近付けてスンと鼻を鳴らして「普段と違う匂いじゃな」というので、また心臓が変に焦りだしながらも「う、うん、さっきフレグランスショップに行って、その匂いが残ってるのかも」と心当たりを返すと少しばかり愛想を失くした声が言った。
「……お前がつけるには男臭いのう」
「そう?」
確かに、先ほど行ったフレグランスショップでは物珍しさからメンズ用を見ていた。それがまさか今も匂いが残っているとは思わなかったし、少しだけ愛想を失くした声は冷ややかで何故か居心地が悪い。しかしそんな中でもキラリと揺れ光るピアスはいまこの状況を打破するだけの力があり、それを目にしたカクはあの日に焼けた手でピアスに触れる。
その瞬間、どうにもお腹がこそばゆくなってしまって、視線を落とすとそれを揶揄うように「似合っとる」と言う声が囁いて、一瞬で全身を熱が包んだ。
「……う、ん」
「……わはは、顔が赤いのう。それで?此処へは何を買いに」
「え、あ、……えっと」
「……まさか、無駄遣いじゃないじゃろうな」
「違いますう、……ただ、その、ピアスのお礼がしたくって」
「うん?」
「だからっ、ピアスのお礼に何かあげたかったのっ」
少しばかり強めに出た言葉。其れを受けたカクも予想外だったようで瞬きを繰り返していたが、次に向けられたのは照れが混じったような笑みだ。少なくとも嫌そうには見えない。だから此処で彼の手を取って「欲しいものあげたかったの」と言ったのは、彼が断わらないよう念押す為。しかし、カクはそれを知ってか知らでかその手を握り返して「わしの欲しいもの知っとるんか」と尋ねる。
ははあ、私と幼馴染であることを忘れているらしい。
「キリンのぬいぐるみとか、船の模型でしょ」
答えると、彼は口をへの字に噤んで深い溜息を吐き出した。
そのあと、彼が欲しいものは一体なんなのかを探す旅が始まった。雑貨屋に本屋、工務店に宝飾店。それこそ、ウォーターセブンにあるすべての店を回ったのではないだろうか。……そもそもカクが欲しいものを言えばそれで終わる話だった気もするけれど、一緒に店を回っているあいだ彼は存外楽しそうだ。なんだかいつもよりも足が弾んでいるように見える。
そうして最後に訪れた店で黒無地のリストバンドを差し出すと、彼はどうしてこれに決めたのかを聞いてくる。それに対して、「カクに似合うと思って」と答えると、やっぱり機嫌の良い顔が笑みを浮かべ「フフ、及第点じゃな」と声を弾ませた。