ナベさん、そういうところですよ!

「お、渡辺いいもん食べてるじゃーん……あーお腹へったなぁ……」
「腹減る気持ちはわかるけどよ、なんでよりにもよって俺にたかるんだよ……」

 神奈川県警捜査第一課の警部補・渡辺基祐は同僚であった。警察に入署してから云十年。同じ部署な上にお互い独り身である事から、気のしれた仲だと思っているが渡辺の面倒臭そうな顔と言ったら。
 隣でラーメンをずるずると啜る後輩の桜井はまた始まったという顔をしていたが、少しくらい分けてくれたって良いだろうに。

「お腹すいたんだから仕方なくない?」
「お前も食えばいいだろ?」
「いやぁもう作るのもダルくって」
「出たよ……お前そういうところが」

 そこまで行って、渡辺が言葉を止める。こういう話題を出した時の××の睨みは強いのだ。渡辺は適当に咳ばらいをして「ストックは?」と尋ねる。我々警察というのは変則勤務が当たり前で、それぞれロッカーや、机には必ずストックを常備しているものだ。しかし、××はここのところは多忙でそのストックを補充する暇もなかった。つまりは完売御礼状態というわけで、ストックなんてものは無い。
 スイと視線を逸らして、ついでに彼の机の横にかけられたストック袋を見ると、可愛げもなく強請った。

「そのチンするご飯でいいから頂戴よ」
「お前な…………」
「だあってここのところ忙しかったんだってば、御子柴殺しの聞き込みに、ほか捜査。本当やること多いのよ。ね、お願い。今度ラーメンでも奢るから」
「……仕方ねぇなぁ」

 渡辺は思う。この女は愚痴も多いし、我儘だ。けれど仕事に対しては誠実で、比較的きっちりとした性格だ。その彼女がストックすら用意もしていないのは、言葉通り多忙なのだろう。その状況を思うと何か無下に断る事も出来ず、溜息を吐いて立ちあがる。
 給湯室で用意したるは、きょうラーメンを買ったときに購入してまだ手をつけていなかったキムチと三角形のチーズが六個入ったロクピーチーズ、それから常備している天かす。電子レンジでパックごはんをあたためて、そこにキムチと天カス、あとはロクピーチーズを適当に細かくちぎって入れてやるだけなのだが、流石にこれをこのまま渡すのは気が引ける。

「……握ってやるか」

 誰でも使えるようにと置かれたラップを使って、それで適当な握り飯を握る。別に料理は得意と言うわけではないが、握り飯だけは若いころから作っているせいか、随分上達したように思う。……いや、握り飯に上達もクソも無いのかもしれないが。
 二百グラムの大盛パックごはんを使って握ったキムチーズ天かすおにぎり。三角に握ったそれはなんとも立派なもので、それを手に疲弊した様子で椅子に座る××に向けて「ほらよ」と差し出すと、××は瞬いた。
なんだか、彼女の手の内にある握り飯が、やたらとでかく見える。

「……なんだよ」
「いや、なんか、すっごい美味しそうなもの作ってくれたから」
「別に色々突っ込んだだけだろ」
「いやぁ……渡辺からの愛を感じちゃったよね」
「あぁ?」

 別に胃の中に入れるだけならパックごはんひとつで良かった。だから特にほかは要求していなかったのに、キムチにチーズに天かすに……随分と豪華なものを作ってくれたものだ。前に天かすを常備しているのを発見したときには、ちょっとからかってしまったが、今後は天かすでも献上してみようかな。

「さっさと食えよ」

 急かされて、さっそくラップを捲って一口頬張る。口の中に感じるキムチの塩辛さとコク、それから天カスの揚げ物的な旨味とチーズのまろやかさに悪魔的だと頬を緩めると、渡辺は息を落とすように笑って、「安い奴だな」と零した。