七夕の日に

荒川真澄
「ああ、そうか。今日は七夕か。……それにしても、わざわざ持ってきたのか?」
懐かしむような声色で言った後の、小さな一笑い。差し出した短冊から抜き取ったのは赤色で、悩む間もなく書いたのは“無病息災”と面白みのない言葉であった。「無病息災……もっとないんですか?これじゃあおじいちゃんみたいですよう」呟くと、彼は椅子に背を預けて、薄く笑いながら言った。
「そうか?でも、これでいいんだ。これほど願うものはない」

沢城
「さーわしーろさん」そう言って差し出した紫色の短冊を、沢城は冷めた目で見ていた。「ガキじゃあるまいし、くだらねぇ」呟く言葉には一つも笑いが入っておらず、「せっかく沢城さんのために持ってきたのに」「私が代筆で書いちゃいますよ、お金って」そう一人でブツクサ言っていると、沢城は「金だぁ?……なんだ、随分と組想いの願い事だな」と適当に言って、ほんの少しだけ笑いを落とした。

真斗
「短冊ねぇ……」
興味なさげなその言葉。深い藍色の短冊を手にした真斗は、短冊をただボンヤリと見ていた。リアリストな彼には、願い事の叶う短冊ではなく、ただの紙切れとしか映っていないのかもしれない。特に何を書こうともせず、願い事も口にせず。ただ眺める様子に「真斗さんとデート出来ますようにって書いちゃおうかなぁ」と言ったのは、冗談でもあったし、どうにかこの場の雰囲気を変えるための一言であったと思う。
真斗はその発言に薄く目を開いたかと思うと、クククと笑った。「短冊に書くほどの願いじゃないだろ」その言葉はどこか機嫌がよく、彼は短冊を差し出して「……まぁ、書けば叶うかもしれねえな」と呟いた。

マスター
「まさか短冊を持ち込むとは思わなかったな」
提供した短冊に書かれた商売繁盛の四文字。なんとも色気のない願い事だと思うが、商売をしていればこういう願いも切実だったりするんだろうか。「マスタぁ……、なんかもっとこう、もっと気持ちを込めたやつにしようよー……」カウンターに突っ伏しながら言うと、彼は笑いながらオレンジジュース入りのグラスを差し出した。「悪いな、願いは自分で叶えるタチなんだ」……これだからマスターは!