足立
流石は元警察。尾行をしていた筈が、曲がり角で待ち伏せをされていた。「ははあ、元とはいえ警察相手に尾行しようなんざ、いい度胸だ」腕組みをしてニッカリと白い歯を見せて笑う足立さん。「いつから気付いてたの?」「最初からだ、あんな分かりやすい尾行、尾行とは言えねえな」「ええー」そこから始まるは尾行が何たるかと言う、尾行講座だが……丁度良いところに春日一番がいた。「お、一番じゃねえか。よし、さっそく尾行してみるか。行くぞ、××」「おー!」面倒見が良いというのか、それともいまだに少年心を持っているというべきか。ともに尾行をして背後から一番を驚かせると、二人で尾行成功とハイタッチをした。
ハン
表通りを歩いて、横に逸れて薄暗い路地裏へと入って。表通りの喧騒が遠くぼやけた頃合い、目の前を歩いていたはずのハン・ジュンギが目を離したすきにいなくなっていた。辺りを見回してもその姿はなく、走って行ったのだろうかと小走りで進むもその先は行き止まりだ。「あれぇ……?」絶対にこの先を歩いて行ったはずなのに。一本道の行き止まりを見て、壁をペタペタを触ってみる。しかし、ヒンヤリと冷たい壁は確かに本物だ。不思議に思い振り返ると──「いけませんね、探偵ごっこだなんて」ハン、ジュンギが立っていた。
「あ、え、ハン君……、あれ、どうして」「フフ……私が貴女に気付かないとでも思いですか。初めから気付いていましたよ、私を尾行していると」「ええー、じゃあずっと気付いてたのに知らんぷりしてたってこと?」もっと早く言ってくれたらよかったのに。唇を尖らせると、彼はそっと後ろの壁に手をついた。「すぐに声を掛けてもよかったのですが……こうして邪魔もなく二人きりになれる時間は少ないですから」明らかな好意と、頬に触れる柔らかい感触。「ほあ……」思わず漏れ出る声は間抜けな音で、ハンはそれに薄く笑みを浮かべて瞳を細めた。
難波
後ろから尾行を初めて数十分。難波悠はまったく気付かない。尾行がうますぎるのか、それとも難波が鈍すぎるのか。後ろからそろそろと近づいていたけれど、あんまりにも気付かないものだから逆にどこまで近づけば気付くかと距離を詰めてみる。わざと三メートルぐらいまで近づいてみたり、それから大きく手を振ってみたり。……それでも気付かない。
「ねえええ、難波さん気付いてよぉ……」なんだか寂しくなってしまい、立ち止まったタイミングでバッグハグをかますと「うおっ」と短く声を上げた難波は振り返り、驚いたように瞬いた。
「××、なんだよ急に……というかよ、急に抱き着いてくるんじゃねえ」
今時若い女が男といるだけで声をかけられんだぞ?呆れ混じりに言われても身体を離さず。「だって難波さん二十分も尾行してるのに気づいてくれないから」そう呟くと、彼はますます呆れたような顔で息を吐き出した。「気付くわけねえ、俺はただのホームレスだぞ?」「あーんなに熱視線を送ってたのに?」「あのな、熱視線っていうのは気付いてる状態で送らなきゃ意味がねえの」「そうなの?」「そうだろ、俺みたいに気付かない奴がいるんだから」乾いた手のひらが頭をポンと撫で、それから額をグイと押す。仕方なしに身体を離して「じゃあ、真正面から熱視線を送らないとね」と言うと、難波は口をへの字に噤み「ガキは興味ねえよ」と視線を逸らした。