ずっと探していた

 ロジャー海賊団には女が乗っていた。彼女は女性で有りながらも、幹部としてシルバーズ・レイリーやスコッパー・ギャバンと肩を並べており、クルーたちからは姐さんと呼ばれ、慕われていたように思う。特に下っ端のシャンクスとバギーは彼女に懐いていたし、彼女もまた、彼らを手の掛かる弟分として見ていたが、ロジャー海賊団の解散時に言った「一緒に来ないか?」というシャンクスたちの誘いには、首を横に振るだけであった。

 ただ、救いがあるとするならば、彼女と手紙のやり取りをするという約束により、繋がりを持てたことだろうか。

「なぁ、姐さん。おれたちまた会えるかな」
「うん?……あら、坊やにしては、随分と可愛いことを言うじゃない。…そうね、じゃあ手紙でも書くわ」
「本当?!絶対だからな!」

 まぁ、この約束以来、二十年以上経った今も手紙は一つとして来ていないのだが。
 気付けば探し続けていた彼女は消息不明のまま数十年が経ち、坊やだった筈のおれは三十九歳になっていた。

 今考えてみれば、あの日のことを約束だと捉えていたが、彼女は一つ提案のようなものを出しただけで、約束だと言うことも、おれの言葉に肯定をすることもなかったように思う。

「……もう潮時なのか……」

 彼女が死んでいるのか、生きているのか分からない。ただ、生きていれば今は六十代くらいだろうか。きっと今あったとて彼女は覚えていないかもしれないし、当時抱いた感情だって、老いた彼女を見て静まるに違いない。ただ、それでも彼女に手紙を書き続けていたのは、最早意地になっていたのかもしれない。

 そんなある日の事。島に降り立ったおれたちは、空になった食料や武器を求め、栄えた港町を歩く。ただ、四皇ともなると当然騒ぎになるわけで初めて降り立った島での扱いはまぁ酷いものだった。きっと襲いにきたのだという疑いと怯えを含ませた視線。それは慣れたものではあるが、いくら慣れても気分の良いものではない。

 だが、こうして名の知れた海賊を前にしても、臆さずにいる者もいるわけで、前を横切るようにして歩く女はさも訳ありといった様子で外套にあるフードを目深く被っているが、ふと風で揺られた際に僅かに見えた顔を見て、おれは腕を掴んだ。

 それを見てベックマンは眉を潜めたが、普段は強引に女を引っかけていない事が功を奏したのか、疑いは女へと。女は突然の行動に肩を弾ませたようであったが、やはり男たちに怯えた様子も見せずに長躯の二人を見上げたのち、手を振り払った。

「……姐さん」

 零れ落ちた言葉は、殆ど無意識に近かったように思う。だが、目の前にいる女は若い。恐らく年齢としては二十代後半から三十代前半ではないだろうか。つまるところ、おれが探している姐さんではなく姐さんによく似た女、もしくは娘であると仮定したほうが自然なのだが、ドクドクと騒々しく鳴り始める心臓が、彼女であると言っている。

「なあ、待ってくれ。あんた、姐さんだろ?」
「……人違いです。離してください」

 だが、目の前の彼女は頷くことはない。ただあの日のようにただ首を横に振ると、唇を噤んで迷惑そうな顔を向けるが、その動作も、表情も、幾度となく見てきたものだ。それを知らないベックマンは「おいお頭、何言って……」と声を掛けてきたが、「おれが姐さんを見間違えるわけがない」のだ。

「……」
「……なぁ、姐さんだろ」
「……」
「……姐さん、おれはあんたのことをずっと探してた。なぜレイリーさん達と年齢の変わらないあんたが、最後に別れたあの日と見た目が変わってないのかなんて今はいい。………だから、少しだけ姐さんの時間が欲しいんだ。」

 言いながら掴んだ彼女の腕を軽く持ち上げると、外套から伸びた細い腕に彼女の証拠であるロジャー海賊団をモチーフにした入れ墨が露わとなった。ああ、やっぱり。そうして、此処までしてようやく彼女は逃れられないと悟ったのだろう。彼女は小さく息を吐き出すと「随分と海賊らしいこというようになったじゃない」と呟いた。

「はは、いまも昔も、おれは海賊だ。……おい、お前たち彼女を丁重にもてなしてくれ。彼女は大事な客人だ」

 それから暫くし、船の甲板にて。

「…大事な客人だったわりに、これはあんまりじゃない?」

 そう渇いた笑いを落とす姐さんを見て、おれは僅かに笑いを落とす。
 彼女が訴えるのも理解はできる。なんせ、彼女の左右にはベックマン、とヤソップ、それから後ろにはホンゴウやスネイクなどの幹部クラスが並び、少し離れたところにもライムジュース、モンスターやパンチ、ガブにロックスターまで控えてるのだから。
 だから、先のとおり彼女の訴えも理解できるが──。

「こうでもしないと逃げられそうでな」
「信用ないのねぇ」
「あの日以来、数十年連絡もなければな」
「……ふふ、手紙を書くなんて守る気のない事を言ってしまってごめんなさいね」
「…おい、とりあえずおれたちに説明してくれ。彼女はいったい誰なんだ?」

 白々しく肩を竦める姐さんの横で、ベックマンが口を挟む。
 そこからは彼女がロジャー海賊団の幹部であったこと、解散後に消息を絶ったこと、約束を破り続けていた事を説明したことで船員たちは声を合わせて「ええ~~~?!」なんて言っていたが、姐さんはそれを見ても詫びる様子も見せず、からからと笑っていた。

「それがどうしていまもこんなナリを」

 二十代そこそこにしか見えないな、とベックマン。

「あら、褒めてくれてありがとう」
「褒めたわけじゃないが」
「………まぁいいさ、それは追々で」
「追々?待って、追々って何。私は今後も会う気なんかないわよ」
「それは困るな。おれは降ろす気なんかないからな」
「……は?……まぁいいわ、じゃあ交渉決裂ね。話はおしまい。まぁ、久しぶりに坊やに会えてよかったわ」

 姐さんは難色を示したのち、またあの日のように涼しい顔で言うと立ち上がるが、合図を受けたように幹部たちは一斉に立ち上がる。彼女は眉間に皺を寄せて「女性を痛ぶるご趣味でもあるのかしら」なんて嫌味を言っていたが、ベックマンが「さぁてな、何がどうなってるかは分からないがうちのお頭はあんたを行かせたくはないらしいからな」と零すと、姐さんは一つ息を吐き出した。

「…………、シャンクス、アンタ本当に海賊みたいね」
「姐さんも知っている通り、おれは昔から海賊さ」

 そう、此処で彼女を逃がすわけにはいかない。
 もう二度と同じ轍を踏まないと決めたのだから。

 そして、おれは海賊なのだから。