夜道

 春日一番と連むようになり、ヤクザにホームレスにコミジュルに横浜流氓にと、随分と交友関係が広くなったように思う。それが良い事かと言えば、恐らく一般的には良い事ではないのだろうが、今までの退屈な日常を思えば良い事のようにも思える。
 ただ、歌舞伎町はいつだって屑の溜まり場で、夜道を歩けば鴨葱扱いでもされているのかあっという間に複数の男たちに囲まれてしまった。
 ああ、これなら用心棒に春日でも雇えば良かったか。「姉ちゃんアンタ美人だな」「俺達と遊ぼうぜ」そんな男たちの話を会話を右から左に流しながら思っていると、「………彼女に何か?」という随分と通りの良い声が後ろから響いて、意識が引き戻された。それも肩がぐいと引かれて目の前は暗くなり、それが男から抱かれていると気付いたのは、只ならぬものを感じた男たちが逃げ去ったあとのことであった。

「ハン……ジュンギ…?」

 それから暫くして、見上げた先の顔を見て呟く。ネオンを受けた銀髪はきらきらと光っていて、元々端正な顔つきだと思っていたが、それが二割、いや三割増しされているように見えて仕方がない。多分、そんじょそこらのホストよりもよっぽど恰好いいのではなかろうか。いや、ホストなんて行ったことが無いから分からないけど。

「はい」
「…ええと、どうして此処に?」
「少しこのあたりに用事があったのですが、帰り道に貴方の姿が見たので、つい」

 迷惑でしたでしょうか、とハン。迷惑も何も無償で男を追い払ってくれたのだ。春日要らずで此方としては有難い限りで、「とんでもない。ありがとう、ハン君。お陰で助かったわ」と返すと、彼は目元を和らげるようにして穏やかに笑んだ。

「それは良かった」
「ハン君はこれから横浜に帰る?」
「えぇ、用は終わりましたから。……貴方は?」
「私も帰るからもしよければ一緒に帰ろうか。ついでにお茶しようよ、何か奢るよ」
「……」
「……ハン君?」
「……いいんでしょうか」
「え?」
「いえ、私はただ声を掛けただけなのに、……その、このような褒美を頂いてしまっても」

 予想外な言葉であった。
 お茶をしようと言ったのだって、ただのお礼としての提案で他意はない。なのに目の前のハン君は幸せを噛みしめるようにはにかんで、「ぜひ、お願いします」と言うので、私は面食らってしまって「う、うん」と言うことしかできなかった。だってそうだろう?こんな端正な顔つきの男から、純度百パーセントの好意を向けられるのだ。それに気付かない筈もなく、私は顔を隠すように顔を背けたけれどハン君は相変わらず嬉しそうなままで「行きましょうか」とさり気無く私の手を取り指を絡めるとゆっくりと歩き出した。