この音が聞こえるか

 暖かい音がする。それを何と表現すればよいか分からないけれど。
 窓辺から伸びる朝の陽射しで目が覚める。その日の体調は最悪で、体が鉛のように重く、熱が全身を襲っていた。息苦しさが胸を満たし、まるで暑い砂漠を彷徨っているような感覚。わしは布団の中で身をよじりながら、最悪の目覚めだと乾いた笑いを落としていると「ああ、起きた?」と鈴を転がすような、そんな声が耳にするりと入ってきた。
 声を辿ると、ベッドサイドに置かれた椅子にアネッタが座っていた。彼女は高い位置で結ったポニーテールを揺らすと「おはよう、体調はどう?」と尋ねる。

「……最悪じゃ、頭も痛いし、熱もある」
「あはは、毒を塗られた矢を掠めるだなんて運が悪いねぇ」

 覚えてる?とアネッタ。
 その言葉を機に、思い返してみたが、自分の失態なんて思い返すだけ不快でしかない。早々に止めてフンと鼻を鳴らすと彼女はすぐに察したらしい、肩をゆらゆらと揺らしたあとに笑うと薄いクマを作った瞳で此方を見つめて「まぁ、でも、起きてくれてよかったよ」と酷く安堵したような、そんな笑みを向けた。

「……わしは何日寝ておった」
「三日かな」
「随分と強力な毒じゃのう」
「そうねぇ」

 穏やかな声。穏やかな陽射し。カーテンが風によって揺らめくたびに、差し込んだ光がきらきらと水面のように反射して、遠くから聞こえる鳥たちのさえずりと彼女の言葉が心地よく響く。

 安堵とはきっとこのような瞬間のこと言うのだろう。先ほどまでは不快感が体を支配していたというのに、胸を満たした息苦しさまでもがゆっくりと抜けていき、零れ落ちた吐息が窓辺へと流れていく。

「……アネッタ」
「うん?」
「好きじゃ」
「……あは、…どうしたの急に」
「なあに、ちと言いたくなってのう」
「ふふ、可愛らしいこといっちゃって」

 ああ、やっぱり暖かい音がする。

 これを、なんと表現すればよいか分からないけれど、ただ、胸の暖かさにたまらなく泣きそうになったのは秘密だ。