窓の無い部屋と言うのは、武骨さや味気無さを感じる。だから部屋を彩るようにと花を飾るようになったのはここ最近の事だが、仕事で留守にする間は給仕係が面倒を見ているお陰で花が枯れる事は無い。しかし、その日にあった花は普段飾られているような薔薇ではなく、白に黄色やオレンジと随分と鮮やかで賑やかな花々で、なんだか普段よりも部屋が明るく見える。隣にある本棚から本を取り、そのまま花を見る。確か、代理購入する場合の指定には入れてもいない花だが、さて一体誰の仕業か。
カクは本を手に、一人掛けソファで熱心に図鑑を読む彼女に尋ねた。
「この花はお前の仕業か、アネッタ」
「うん?」
「この花じゃ、わしの部屋にしては明るすぎるじゃろ」
「え~たまにはこういう可愛らしい感じもいいじゃん」
カクの部屋は骨董品ばっかりで渋いからコーディネートしてあげたの!恩着せがましいにも程があるが、何故だかきょうの彼女は得意げだ。一体なにがどうしてそんな顔が出来るのだと思ったが、そういえばいま彼女が見ている本は花の図鑑だ。首を傾げた後、つられて同じように頭を傾ける彼女を見て「それは」と指さすと、彼女はやっぱり得意げな顔で花が描かれた図鑑を見せた。
「花の図鑑。カクの部屋をもっと綺麗にしてあげようかなって」
「頼んどらんが」
「まぁまぁ、そう言わず」
「すでに少し部屋の雰囲気が崩れておるし」
「何事にも新しい風が必要だって海軍の人がいってたよ」
「はぁ」
近付いて、彼女が開いた図鑑を見ると、ちょうど花瓶にある花が描かれている。名前はダリア。花びらの数が多い上に全体のフォルムが丸いそれは確かに彼女の言うとおり、可愛らしい見目をしている。アネッタはそれを指したあと、つうと指を滑らせて「ほら、此処に花言葉が書いてあるでしょう。花言葉は華麗、優美、気品。部屋に合ってるでしょ」と語り、笑みを向けるがその他の花言葉には裏切りという言葉があったはず。……まぁ、向けられるにっこりとした笑みを見るにそういった腹黒さは無いのだろうが、悪意が無いだけに突っぱねる事も出来ない。
頭を掻くと、彼女は途端に眉尻を下げて申し訳なさそうな顔を向けた。
「カクは太陽みたいに明るいから、ああいうカラーもいいなって思ったんだけど、やっぱり駄目だった?」
そのしょんぼりと頭を垂らす姿といったら。その時、頭の中でいつぞやにジャブラから言われた惚れたら負けだという言葉を思い出す。あの時はそんなのお前だけだと思っていたが、あながち間違いではなかったのかもしれない。カクは口元を弧に描いて、その柔らかな頬を軽く摘まんでみせた。
「いいや?駄目とはいっとらん」
「じゃあまた花を選んでもいい?」
「……あぁ、構わん」
「じゃあね、今度はあの花瓶に飾ってあげるね」
そう言って、嬉しそうに笑みながら指名を受ける壺たち。暖炉の上に置かれた斑模様の壺たちは花瓶ではなく骨董品なのだが……彼女はそれを理解していないらしい。よりにもよって巨匠による遺作である壺を、適当な無名作家による花瓶と同じ扱いをするとにっこりと笑う。しかし骨董品集めが趣味のカクにとっては気にくわない言動だ。彼は両手で彼女の頬を伸ばしながら、あれが高価なものであることや、観賞用の骨董品を花瓶にすることは出来ないと伝えると、彼女は頬を伸ばされながら不思議そうに首を傾げ、その花瓶と何が違うのと逆鱗を撫でまわした。