なんやかんやで面倒みてまして

■なんやかんやで面倒をみてまして

荒川真澄&沢城
「ああ……そうか、今日は××がウチにくる日だったか」
おかえりなさい!野太い声のなかに、鈴を転がすような声が混じっていた。諸事情で面倒を見る事になった××は学校帰りなのか制服姿で、武骨な事務所では随分と浮いて見える。
それを丈も快くは思っていないようで「親父、コイツが居ると仕事になりませんよ」とため息を吐くが、××は唇を尖らせている。
「ええ、私お金を数えるの手伝ったじゃないですか」「機械に入れただけだろうが」「それでも手伝いは手伝いですよ、私がやってるあいだ沢城さんは手が空いてたでしょ?」「手が空いてもテメエを見てちゃ意味がねえ」
……案外、この組み合わせは悪くないのかもしれない。
それにいま気付いたが、事務所の奥にある机に色鮮やかな花が飾られている。白にピンクに黄色。なんともまぁ此処にいる野郎じゃ選ばないような色合いだ。「これは××が飾ったのか」「はいっ、バ先で頂いたんです。でも折角なら真澄さんたちに見せたくって」「はは、そうか。そいつは嬉しい手土産だな」――誇らしげな笑みの眩しいこと。帽子を取り、××の頭を撫でると、彼女はまた嬉しそうに笑ってスカートの裾を揺らした。

花輪
「……門限を三分も過ぎて、一体どういうおつもりですか」
確かに、指定された門限は過ぎていた。だが、たったの三分。百八十秒しかすぎていない。それなのに、彼は玄関先に仁王立ちで待ち構えており、その声は冷ややかだ。心なしか向けられる眼差しもチクチクとしている。黙り込んでいると「破るつもりなら、約束なんてしないで頂きたい」と追撃が刺してくる。「で、でも急いで帰ってきたし……」「余裕をもって行動すれば良かっただけでは?」「ごもっともで……」くそう、桐生さんには甘々な対応なくせに……!このままではお小遣いカットまでされてしまいそうだ。××は暫くその場で黙り込んだ後、鞄に手を突っ込んで綺麗にラッピングされたものを出し、しおらしい態度を見せた。「違うの、その……花輪さんにこれをあげたくって悩んでたら遅れちゃったの」――これは奥の手。以前、桐生さんが、何かあったらとこうしたらいいとコッソリ教えてくれたのだ。
「……、……選んでいて遅れたと?」「はい……」「……それで叱られては元の木阿弥でしょうに」……心なしか、叱るような声色がほんの少しだけ和らいだ気がする。チラリと見上げると花輪さんの視線とぶつかり合うものの、彼は溜息を一つ落とすだけ。眼鏡を中指で押し上げた。
「……今後は、きちんと一報を入れるように」
その言葉は、少しだけ柔らかかった。

一番&マスター
テスト期間も終えて、返ってきたテストを握りしめて憂鬱な気持ちで帰ったのはサバイバーであった。まだ日暮れ前だというのにいつもの面子が揃っており、「おう、おかえり」というマスターの声が柔らかく聞こえる。それからマスターに続いて「おかえり××ちゃん!きょうはどんな一日だったんだ?」と尋ねる一番の声はきょうも元気いっぱいで、それに癒される反面、今日だけは突っ込んでほしくない話題であった。
「……ええ、っとぉ……」カウンター席に座りながらも、濁りに濁ったその言葉。普段は包み隠さずきょうの出来事を報告していただけに、その返答には違和感があったようだ。「なんだ、どうしたんだ」「もしかして、何かあったのか」尋ねるマスターの声色は穏やかで、続く一番の声には心配が混じりだした。
――多分、本当に私のことを想って心配してくれているんだ。そう思うと、まさか今ある悩みが勉強に関することだと隠す事も出来ず、きょう返ってきたばかりのテスト用紙を前に並べた。「数学九十五点……倫理九十八点、世界史九十三点……なんだ、どれもいい点数じゃねえか」不思議そうに首を傾げるマスターと、「すげえ……!なんだこの点数……××ちゃん、東大に行けちまうんじゃねえか……?!」と目を輝かせる一番。……思いのほか反応が良い。てっきり、笑われたり、あとちょっとなんだからしっかりやれと言われると思ったのにな。
「え、あ、いやそんなことはなくって、むしろその、百点取れなかったから……悔しくって」
そう言うと、一番は目を輝かせたまま強く拳を握った。「なんだよ、××ちゃんこんなに点数いいのに、まだ向上心もってんのか!」「え?あ、う、うん……どうせなら百点がいいでしょ」「はぁ……すげぇなぁ、俺がガキだった時はこんなにいい点数を取れた事がねえ。それなのに、それなのに××ちゃんは……!」
……なんだか凄い熱量だ。それを聞いていると、学校から持ち帰ってきた鬱々とした気持ちも吹き飛んでいくような。それに笑いを落としたマスターはオレンジジュースを注いだグラスを差し出し「この点数も大したもんだ。まずは自分を労わって反省は後からすりゃあいい。これはサービスだ」と笑った。