「おれとデートしてよ」青年は、真っ直ぐに呟いた。
マスター
「……言う相手を間違ってねえか」
唐突なデートの申し出に、沈黙が続く。そのあとの返しは呆れ混じりの乾いた言葉で、冗談で取られてしまったのだと理解する。「冗談にしちゃタチが悪いな」そんな言葉と共に差し出された酒は、今しがた頼んだばかりのウイスキーだが、トプンと波打つそれが自分の心情を表現しているように思えてならない。咄嗟に、グラスから離れ行く手を掴む。
「どうやったら信じてくれんの、他でもないマスターを誘ってるって」
尋ねると、マスターは僅かに瞳を開いたあと、直ぐに双眼を細めて乾いた笑いを落とした。「そう簡単に落ちちゃ、つまらねぇだろ」囁くような言葉に、挑戦的な笑み。…この人、魔性だ!
トミザワ
「………あのよ、もっと普通に出かけるとかって言い方出来ないのか?」
デートってお前……。トミザワは呆れたように言いながら、シッシッと手のひらを揺らす。それを見て「好きな奴と出かける事って、デートじゃねえの」そう真正面に行ったのは純粋な疑問提示だったのだが、彼はそれを長いこと考えた末にボッと顔に熱を集めて「はぁ?!」と返した。
一番
「デデデ、デートォ?!」
サッちゃんでもなく、ソンヒでもなく、俺と?!喜びや照れよりも先に出た驚きに、思わず声が大きくなる。……いや、まぁ、そういう反応を見るのも愉快なので良いのだが、それにしたって良い反応を見せたものだ。「そう、サッちゃんでもなく、ソンヒでもなく一番とデートしたくてさ」そう言ってついでに「駄目か?」と言ったのは、彼が断わりづらい性格を利用しての狡い策。「いや、駄目ってこたねえけどよ……」「じゃあ、俺のためにお洒落してきてくれよ。デートなんだからさ」そう呟くと、一番はそれが冗談でもお遊びでもないと、はじめて自覚をしたらしい。日に焼けた肌が熱湯を被ったように赤くなり、彼は頭を掻いて「無茶言うなよ……」とぼやいた。
山井
「面倒くせえ」
あまりの脈無し回答に笑みが強張る。いや、もっと考えてくれよとか、断る理由に面倒臭いはどうなんだと言うべきだろうか。しかし、それにしては同姓である事が理由ではなさそうな。緩慢な動きでソファの背に凭れて手を摩る様子にそういえば今日は比較的肌寒い朝だった事を思い出す。「なあ、山井。もしかして体調悪いんじゃないか?」言葉なく掴んだ手は冷え切っている。「そりゃデートは無理だわな」「……」……どうやらデートが特別嫌というわけではないらしい。なんとも猫らしい男だ。ソファに適当にかけたブランケットを広げて、彼の膝上に乗せる。それから立ちあがり「珈琲でも入れてくるよ」と言うと、「インスタントじゃねえだろうな」と我儘な要望が背中を蹴った。