──紅茶も珈琲も、ストレートは苦手だ。
渋みがあるし、甘味は無いし。紅茶や珈琲が嗜好品と言うのなら、自分好みにしたいけれど、こういった紅茶や珈琲が出されるような場で砂糖をポチャンポチャンと落とすのは品が無く見えるらしい。
よって「あら、飲まないの?」とステューシーから尋ねられた時には渋い顔を見せる事しか出来ず。黙り込んでいると、隣に座っているカクが呆れたように息を吐き出した。
「ストレートじゃないと飲めんらしい。まったくお子ちゃまじゃのう」
「ぐぬぬ……」
ごもっともな意見すぎて、言い返す事が出来ない。紅茶と一緒に出されたスコーンを手で割って、もったりとした苺のジャムを塗る。厚めにジャムを持ち上げると品が無いとまた叱られてしまったが、いちいち叱る方も品が無いのではないと思う。……いや、まぁ、これを言ったら火に油を注ぐ事になるので言わないけども。
次の任務に向けた作戦会議の一幕。取り敢えず邪魔にならぬよう一口ぶん千切ったスコーンを食べていると、向かいに座ったステューシーが机にあるベルをチリンチリンと鳴らした。
入ってきた給仕係は一人。一言二言話し、持ってきてもらった小ぶりなポットを受け取ると、私の前に差し出した。
「ミルクティーなら品が無いと思われないわ、やってみたらどう?」
小ぶりなポットには、トプンと波打つ真っ白なミルクが。――ああ、そうか。これはミルクジャグか。
世界政府の人間はどうしてかストレートで飲む事が多いせいか、会議では中々見かけないその存在。ゆえに、なんだかんだミルクティーを飲むのは初めてだ。
ミルクジャグを手に、恐々と紅茶が揺らめくティーカップへとミルクを注ぐ。赤みの有る琥珀色には白が混じり、淡いモカブラウンへと変わるその瞬間。ふわりと香り立つ匂いも柔らかくなって、紅茶を飲む手には期待が混じっていた。
「……ん……美味しーい……!」
これまであった渋みがなくなり、まろやかな甘みが混ざっている。鼻から抜ける上品な香りもミルクがより濃厚にしたように思えて、無意識のうちに言葉が弾んでしまう。
「ステューシー、これ美味しいねぇ。これなら私でもゴクゴクいけちゃうよ」
それに、なんといってもミルクティーとスコーンはよく合う。手にしたスコーンをぺろりと平らげて、もう一つ取ろうと手を伸ばすとカクが軽く手を叩いた。
「いたっ、何よう……」
「コラコラ、あまりおかわりするもんじゃない。品が無く見えるぞ」
「あら、いいじゃない。作戦会議といっても実のところはゲルニカたちの報告指示待ちだもの」
「ステューシー……お前がそう甘やかすとじゃな……」
「アネッタ、私の分も食べていいわよ。それから紅茶が出される場ではミルクも必ず用意されている筈だから、席になかったから持ってくるよう伝えるといいわ」
「わーい」
喜ぶ私と、ため息を吐き出すカク。
CP0になってよかったなぁ。カクとルッチが厳しい分、ステューシーは優しいし、長官室では出なかった紅茶やお菓子まで出てくるし。口の中でモロモロと崩れるスコーンは絶品で、口の中に残る苺の甘味と酸味に頬が緩む。
その様子にカクはやっぱり溜息を吐き出していた。
「ステューシー、お前はアネッタに甘すぎる」
そう言って苦言まで呈していたが……そうやって苦言を呈している間も、彼は自分の皿にあったスコーンを私の皿に移している。私とステューシーは顔を見合わせてフフと笑い、一番甘いのはカクなんだよなぁと思ったことは内緒にしておこうと思う。
「うーん美味しい……これからは会議の時間も億劫にならないねぇ」
「あら、じゃあアネッタの発言にも期待しようかしら」
「おお、そりゃあええのう。きちんと発言をしてもらうか」
「うっ」