鈍感はどっちだ?

「この季節は街が賑やかになっていいよなぁ」

 隣を歩く春日一番は、今日もご機嫌な様子で足を弾ませていた。
 十月下旬のハロウィン前。街並みはすっかりハロウィン仕様になっており、いたるところにジャック・オ・ランタンや幽霊たちが潜んでいる。
 それを楽しげに見つめる一番は、子供のようにワクワクしているように思えて──そういえば、彼は私が生まれるよりも前から刑務所にいたんだっけと、そんなことを思った。

「一番が働いてるハロワでは、仮装とかしないの?」
「いやぁ、どうだろうなぁ……ハロワってのは仕事がなくて切羽詰まってる人もいるからよ、仮装なんてしたらふざけてんのかって思うんじゃねえか?」
「へー……?」

 ──そういうものなんだろうか。
 なんだか気になって、携帯で「ハローワーク ハロウィン」と打ち込んでみる。ズラリと並んだ検索結果の殆どはハロウィンが除外されたものばかりだったが、しばらくスクロールした先に職員さんが館内を飾り付けたり、仮装をして盛り上げている話もあった。

「ね、ね、でも普通にハロウィンやってるとこもあるみたいだよ」

 携帯を傾けて見せると一番は身を寄せて前屈みになりながら覗いた。

「へー……案外受け入れられるんだなぁ……」
「切羽詰まってるからこそ、案外ホッとするのかもねぇ。……あ、配るお菓子は一番製菓のおせんべいとかおかきにしたら?」
「配るには渋すぎねえか?」
「エリちゃんは喜ぶと思うけどなぁ」

 あとは私も喜ぶ。
 一番製菓のお菓子はどれも美味しいし、サイズ感が大きいし。
 そんなことを考えながらヘラヘラと笑っていると、流石のにぶちん一番も気付いたようで、彼は小さく息を吐き出して肩を竦めた。

「エリちゃんよりも××ちゃんが喜びそうだな」
「喜ぶよー、ハロウィン期待してるね一番」
「それじゃあしっかり準備しないとな。……なぁ、××ちゃん。良かったら、いっしょに選んでくれるか?」
「もちろん、お仕事でするならガチじゃなくて被り物とかがいいよね」
「え?」
「あ、サッちゃんとかソンヒも呼ぶ?二人ともオシャレだし良い意見が出ると思うんだよね~」

 身内で楽しむのなら地味ハロぐらいがちょうど良いのかもしれないけれど、どうせ彼は地味ハロをしらないだろうし、もっとハロウィンっぽいものを仮装させたい。
 例えば、被り物のジャック・オ・ランタンとか、可愛い猫耳とか。あとは身長を生かしてドラキュラなんかも似合いそうだし、……ううん、悩ましい。やっぱりサッちゃんやソンヒにきてもらおうかな。
 ハロウィンまではあと数日。残す時間は少なく、「とりあえずドンキいこ、ドンキ」と手を引くと、彼は少しだけ渋い顔で、「××ちゃんって、意外と鈍感だよな……」と呟いた。