「アネ」
カクは時々、ものすごーく甘えたになる。
例えば、今みたいに後ろからぎゅっと抱きしめてくる時とか。
スパンダムさんからのおつかいで、学校帰りに横浜まで行った時のこと。荷物の受け渡しをして解散したのは山上公園のバラ園で、美しく咲き誇る花の前で渡した紙袋は随分と重かった。──あれには、一体なにが入っていたのやら。
ともあれ、受け渡しも成功して手に持つは減り、用事は無くなった。学校帰りということもあり、すでに辺り一帯は暗くなっており、海辺に建つ公園から見える七色の観覧車は特別美しく見える。気付けば観光客たちの殆どはカップルになっており、近くに座ったカップルの密着具合が少し気まずい。
海際の白い柵へと近寄って、ゆっくりと息を吐く。陽が落ちたいま、下を見たって海は暗いけれど、遠くに見える観覧車はビカビカに明るかった。
「綺麗だねー……」
門限を考えたら、本当はすぐにでも帰らなければならない。
でもせっかく横浜にきたのだ。荷物を渡してハイ直帰と言うのはつまらない。カクも普段は口煩いのにきょうは何も言わず。そっと後ろから身を寄せるようにして抱きしめると、耳元で囁いた。
「アネ」
穏やかで、柔らかな声。普段とはまた違うその声に、甘えていると気付いたのは恋人という関係のお陰……というよりも恋人以前に幼馴染だからかもしれない。くるりと振り返り、肌寒い時期になっていつもよりも一枚多くコートを着ている彼を抱きしめる。正面から抱きしめると、カクは少しだけ薄く目を開いていた気もするが、初めに“手を出した“のは彼だ。
「私も甘えちゃった」
カクは甘やかし上手だもんね。そう言うと、彼の瞳が細くなり眉尻を下げて笑う。「そうじゃの、……そうかもしれん」その噛みしめるような言い方は、やっぱりいつもよりも落ち着いているような。
三十センチ近く身長の高い彼を見上げると、彼の首元を掴んで引き寄せつつ──こちらも背伸びをした。
呼吸が止まって、沈黙が生まれたのはほんの数秒。けれど、浮いた踵を戻したとき、彼の顔は珍しくも赤くなっていて思わず頬が緩んだ。
「へへ、奪っちゃったー」
普段なら絶対にこんなこと出来ないのに、どうしてキスなんて出来たんだろう。
観覧車がビカビカに明るくて、街灯もあるとはいえ、それなりに薄暗いせいだろうか。それでも多少の気恥ずかしさはあり、ちらりと辺りを見回してみる。意外なことに、みんな自分の恋人かビカビカの観覧車に夢中でだれも此方を見ていない。
自分からやった事とはいえ安堵していると、今度は自分の胸がグンッと引っ張られて、柔らかいものが触れた。
一秒、二秒、三秒──。
長く触れ続けるそれに、瞳が細くなる。拒みもせずに受け入れると、彼は少しだけ満足そうな顔で抱きしめて、ぎゅっと力を込めた。
「フフ……たまにはええのう」
「ねー、カクのデレもたまにはいいよね」
「……一言余計じゃ」