可愛いあの子を泣かせたときに

ピュール
「え゛っ、な、」
ぎょっとした顔で言葉を詰まらせるピュール。確かに返した言葉は素っ気なかったかもしれないし、目だってろくに合わせもしなかったけど。でも、そんなのはいつもの事だったはずではないか。……それなのに、彼女の瞳からはボタボタと涙が落ち続けている。この状況に言葉を詰まらせたピュールは何度か手を向けようとしては途中で止めて、引いてを繰り返す。「どうして泣くんですか」「ボク、そんなに強く言いましたかね」「別に、キミを泣かせるつもりじゃ」疑問と、言い訳と、申し訳なさ。それは一方的に落ちるものの、返答はなく代わりに涙が落ち続けている。ピュールは沈黙の末、袖を伸ばして近付け──それを引いてポケットから一枚のハンカチを取り出して彼女の目元に向けると、涙を拭いながら呟いた。
「……泣かないでください、本当にキミを泣かせるつもりじゃなかったんです」「ボクが悪かったです、……ボクが悪くていいから。……泣かないで」
その静かな言葉は僅かに震え、彼の瞳は揺れていた。

ホップ
「うわっ、ごめん!おれもしかして言いすぎたか?!」「あ゛~~~っ、本当ごめん、××。おれそういうつもりで言ったんじゃなくて……」
驚きに驚きを重ねて、慌てふためくホップ。上手く伝えきれない自分の想いがもどかしくて仕方がない。眉間に皺を寄せる彼は、頭をガシガシと掻いて言葉を濁らせる。それから自分の袖が濡れるのも厭わずに目元を拭い、「ごめんな、××」そう呟く彼の顔は曇り陰っており、申し訳なさそうな彼に身を寄せたのは甘えすぎたか。ちらりと視線を上げると、ホップは包み込むように──というよりもただ身体をぎゅうぎゅうと抱きしめて「うわ~、本当悪かったよ××!」「おれっ、××がそうやって泣いてると困るんだよ。胸が痛くて、おれまで悲しくなるっていうか……」そう言い続けて、彼のパニック謝罪は暫く続いた。

ジプソ
「…………」
無言でサァー……と血の気が引いて青くなるジプソ。サビ組カラスバの右腕ジプソ。その像を崩すわけにも行かずに、とつぜん泣き始めた彼女を手放しに抱きしめる事も、動揺する事も出来ない。……筈が、若干の動揺は漏れていたか。直後、頭を過ぎる考えはどれも泣きだした原因を探ることばかりで、頭はフル稼働を極めるものの、どうにもこうにも先の発言が悪かったとしか思えない。
シクシクと耳を掠める泣き声は心臓をいやに圧迫する。息苦しさから逃れるよう首元を気にして息を吐き出し、こめかみあたりを太い指先が掻く。それから手を下ろした彼は「申し訳ございません、なにか失言をしてしまったようです」と普段よりも落ちた声で謝罪をすると、暫くの沈黙をあけて訊ねた。
「……失礼、触れてもよろしいですか」
低くて、それでいて少しだけ落ち着いた穏やかな声。彼女の瞬きひとつはイエスの合図。彼は頬に指を寄せると、落ちる涙を拭って「ワタクシが言えた事ではないかもしれませんが……貴方の涙は心臓に悪いようだ」とポツリと呟いた。