「ほあー……綺麗な指輪だぁ……」
まんまる輪っかに、大きな宝石。美しいそのスフェーンは、傾けるだけでまた異なる煌めきを見せる。財宝をこよなく愛する竜からすれば、あれはお宝だ。すっかり魅了された彼女は飽きもせずに眺め続けて、うつ伏せに寝転がった先で足をパタパタと揺らしている。
尻尾替わりに機嫌を示したその動きは、まさに上機嫌そのもの。気が散って頁の進んでいない本を閉じると──移動して、彼女の腰にドシンと腰を下ろした。
「ぐえっ!」
蛙が潰れたような声。しかし、あの細い指はしっかりと指輪を掴んだまま。彼女の手が動くたびに、ダイヤモンドに勝る煌めきが火花のように散り、不快感ばかりが募る。たまらず摘まんだままの指輪を取り上げると、潰れた蛙が足を揺らした。
「あ、ねぇ、それ私の!」
「なーにが私のじゃ、舞踏会で貢がれただけじゃろ」
「貢がれたなら私のものであってるじゃない!」
ピーキー煩い彼女は、何も分かっちゃいない。
この指輪を貢がれた意味も、わしがなぜ怒っているのかも。
同じだけの年数を生きながらも、長命族である彼女は人よりも歩みが遅い。だから、未だ幼い彼女には心の機微を捉えられないのだろう。暫く喚いていた彼女は諦めたように両手ほどの小さなジュエリーボックスを引き寄せる。
「ふーん、いいもんねーだ。私にはまだあるもん」
傍らに置かれていたそれは、随分と前に欲しい欲しいと強請るから買い与えたものだった。中には指輪やブローチ、それから未加工の宝石たちが雑に入れられている。……たしか、上部にあるブローチは彼女を気に入った子爵から贈られたもので、その隣にあるのは別の舞踏会で貢がれた指輪だったか。
鑑定士たちに見せたら泡を吹いて卒倒しそうな光景だが、そういえば絵本に描かれた財宝を守る竜たちも、決まって乱雑に置かれた財宝の上に寝そべっていた。──案外、物を傷つけぬよう綺麗に並べて鑑賞するのは、人間固有の文化なのかもしれない。
「お前は綺麗なものが好きじゃのう」
指輪を貢がれても、その指輪の美しさにしか興味がないということか。アネッタはうっとりとしたまま、言った。
「キラキラで綺麗なので……」
「綺麗以外の情報はないんか」
「だって綺麗としか言えないんだもん」
「はあ、語彙力がないやつじゃのう。……で、わしがやった指輪やブローチはどうした」
此処にあるんか?
尋ねると、彼女は良い質問ですとばかりに笑みを向けて、もう一つのジュエリーボックスを開く。そこは先のジュエリーボックスとは違い、左右で仕切りがあり、左側にはブローチ。右側には指輪の台座と綺麗に整えられている。
「見て、こっちはカクがくれたものだよ!」
明らかに特別優遇されたもの。それを見て嫌な思いをする筈も無く、少しの優越感が滲んだ。
「おお……なんじゃ、随分と優遇されとるのう」
「へへー、宝物はちゃんと綺麗に置くんだー」
「うん?そっちのは宝物じゃないんか」
「こっちも宝物だけど、カクがくれたものはもっと宝物なの」
そうやって嬉しそうに笑う彼女は、紛れもない純粋だ。それをやれ諜報だ暗殺だと手引きしているのは大人の都合でしかないが──彼女は悪を知らない。ほかに攫われるよりかはずっといい。
「フフ……そうか、そりゃあよかった」
かろかろかろ。ジュエリーボックスの横にあるネジを巻くと、聞き馴染みのあるメロディが流れる。それに合わせて揺れる足は、また上機嫌そのもので。手にした指輪をピンと弾いて二軍へと戻してやれば、「そこの空いとる場所がちと寂しいのう」──そう提案をして、期待に目を輝かせる彼女にフと笑った。
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