二週間に一度の、大量まとめ買いの日。ブルーノとカクを連れて、倉庫型スーパーにやってきた私は、家電製品コーナーの一角にある、ジューサーの前で足を止めた。現品限りの3980円。中々のお手頃価格だ。そういえば、最近キャロットがジューサーを買って人参ジュースを作るのにハマってるとか言ってたっけ。
確かに、これがあれば、やれビタミン摂取だ、やれおやつだとよく買っている果物でジュースを作る事が出来るし、時々お隣さんから頂く大量の果物だって、腐らせる前にこれで消費することが出来るかもしれない。うん、案外良いかもしれない。何より楽しそうだ。そう思って、隣を歩いていたブルーノの裾を掴んだ私は「ブルーノ、これ欲しい…」としおらしく、控えめに強請ってみたのだが、ブルーノは私を見つめて、それから私が指したジューサーを見つめたあと「必要ないな」とばっさりと切り捨てる。
そりゃあもう、ノータイムだ。買ってあげようかな、なんて考える暇すら無かった。
「ちょちょちょ…もうちょっと考えるとかさぁ……」
これには、私も引き下がれずに食い下がる。しかし、流石は財布係だ。財布の紐が固いようで「必要ないだろう。そもそも誰が使うんだ」と問いかけてきた。
「そりゃあ、私が使うよ」
「お前だけが使うのなら、自分の小遣いから買え」
「んんん、でっ、でもカクとかバナナジュース好きだから使うかも……ねっ、カク!」
正論すぎて言葉が詰まる。思わず近くにいたカクに助けを求めたが、カクは知ってか知らでか、頭の方で手を組んで「いやぁ、わしゃ面倒じゃから使わんぞ」と言うし、ブルーノはそれを聞いて「買わないで決まりだな」と言うしで取り付く島もない。
ああ、もう、カクの裏切者。くそう、決めたぞ。もしジューサーを買っても絶対カクには作ってあげないんだ。
しかしどうしたものか、このままじゃ本当に棄却になってしまう。何かそう、ブルーノがぐらりと惹かれるようなことを言うのはどうだろうか。例えば、そう。
「あ、でっ、でもっ、これがあったらミルクシェイクだって作り放題だよ!」
そう、ブルーノの好物であるミルクシェクだ。
私はミルクシェイクを最後の切り札としてブルーノに向ける。その瞬間、ブルーノの手がぴたりと止まった。当然それを見逃さなかった私はもう一押しだと悟る。恐らく、このジューサーのデメリットは、使用後の後片付けだ。それぐらいだったら私でも出来る筈で、「か、買ってくれたら……私作るし…………」と最後のデメリットを無くす言葉を彼に向けると、ブルーノが押し黙り、長い沈黙が生まれた。
「……」
「……」
「………アネッタ、どうしても欲しいのか」
「…!ほ、欲しい……!」
「……そうか」
ブルーノは視線を落としてジューサーを見つめる。それには意外そうに「なんじゃブルーノ買ってやるのか?」とカクが問いかけるのだが、本当に余計なことをしてくれる。どすどすとカクの腹を肘で突きながら「ちょっと、カク余計なこと言わないでよ」と小さな声で言うとカクは「わしゃ聞いただけじゃ」とブルーノに聞こえるように笑うのだから、意地悪というのか、憎たらしいというのか。
それから、暫くの間を置いて、ブルーノが「ついてこい」と言って歩き出した。もしかして買ってくれるのだろうかと期待したが、ブルーノが歩く方向は会計レジとは真逆で、その手にはジューサーも無い。
唐突な移動提案に私とカクは一体どうしたんだろうと顔を見合わせたが、ブルーノはその間にも此方を見ることなく、さっさと先に行ってしまうので、そのまま家電製品コーナーを離れて、その先で、ブルーノに言われるがままベンチに腰を下ろした。
「少し待っていろ。」
ついてこいの後には、待てときた。
ブルーノってばサプライズのつもりで買ってくるつもりだろうか。意外とそういう面があるんだ…ふうん。そんなことを思いながら、わくわくして待っていたのだが、十分と経たずに戻ってきたブルーノの手には、ジューサーの箱も、それらしいものが入った袋なんてものもなく、どういうことだと疑問符を頭上に浮かべていると、私たちの前にぬうっと手が差し出された。
見れば、差し出された手は、コーン型のソフトクリームを二つほど持っており、私がしぱしぱと瞬きを繰り返しているうちに、「わしバニラ~」とカクが先にバニラを取っていってしまい、残ったチョコソフトが私を見上げる。
いまだ状況が理解できずにブルーノを見上げると、食べないのか、と視線が問いかけるので、色々腹落ちはしていないものの、取り合えず溶ける前に食べてしまおうと、ブルーノが持つチョコソフトクリームを受け取って、「あ、い、いただきます…」と口元へと寄せた。
ソフトクリームはひんやりと冷たくて、舌が持ち上げたそれは口の中でじわりと溶けてチョコレートの甘みと風味が広がる。確か、ここのアイスは100円なのにとても美味しいと有名なんだっけ。そんなことを思っていると、ブルーノが、「これで我慢しろ」と言葉を落とし、そこでようやく、私はしてやられたのだと気づいた。ああ、このアイスはジューサーの代わりなのか。
「…?!」
「わははっ、してやられたのうアネッタ!」
「や、やられた………!」
なんということだ3980円のジューサーが、100円のソフトクリームに化けてしまった。
謀ったなブルーノ!
そう言いたかったが、不思議な事に食べている間にも物欲は段々と落ち着いていって、結局ブルーノの目論見通りになってしまったのだった。