「――っはぁ!」
酷い夢を見た。思わず目を背けたくなるような、それこそ夢であることを願うような、酷い夢であった。そんな夢からもがいて、谷底に落ちるような感覚で跳ね起きたアネッタは息を吐く。ばくばくと心臓が痛くなるほどの激しい動悸。まるで全力疾走をした後のような息切れと動悸に胸元を押さえていたが、抑えた手は情けなく震えていて、それでもなんとか落ち着かせようと小さく深呼吸を繰り返していると、隣から「どうした」という声が聞こえた。
隣には、目元を包帯で覆ったカクがいた。閃光弾を真っ向から食らったことで一時的に視力を失っている彼は、いまこうしている間もアネッタのことなんか見えちゃいない筈なのに、的確に目元を親指の腹でなぞって涙を拭う。まるで見えているような、そんな手つきであった。
「……寝起きで見聞色の覇気を使うものじゃないよ」
たまらずアネッタは彼を気遣い零したが、彼は僅かに口元を和らげて「お前のことなんて、覇気を使わずとも分かるわい」と、それだけを言うと、手を離して隣を叩いた。
「ほれ、もう少しこっちへ来い。わしがおったら悪夢も見んじゃろうて」
「……本当?」
「あぁ、もしも悪夢を見ておったら助けに行ってやろう」
「見えないのに?」
「こら、茶化すんじゃない」
「ん………ふふ、カクは優しいねぇ」
「……なんじゃ、今更気付いたのか?」
「ううん、改めて思っただけ」
言って、隣へと寝転ぶと、彼は片腕を伸ばして腕枕をしてくれた。それから、空いた片手は角を避けて頭を触り、耳朶をすりすりと撫でると、愛を囁くでもなく、ただ一言「おやすみ」と穏やかに囁いた。