■足立
「頭を撫でるのはいいが、随分と可愛いおねだりだな」
可愛い女の子に強請られて嫌がるような男なんて居ないぜと笑うのは足立だが、改めて強請られてはどうにも調子が狂う。
頭を撫でる、頭を撫でるねぇ。
当然そこに拒否の文字は無いが、頭を撫でるだけで満足出来るのだろうか。彼は暫く考えたあと一度だけ頭を撫でる。それも、軽くぽんぽんと叩くようなそれだ。しかし強請った本人はというと、足立を見て不満げな顔で「もっと心を込めて」と手厳しい事を言って唇を尖らせる。これには足立も「そりゃないぜ」と困ったような顔を向けるが、先のとおりおねだりを断るような男はいない。
足立はその場で指抜きグローブを外すと、両手でわしゃわしゃと犬でも愛でるように思い切り撫でまわし、「頼んだ相手が悪かったな」と意地悪く白い歯を見せて笑った。
■難波
「難波、頭撫でてよ」
唐突な言葉に、唐突なおねだり。恋人でもなんでもない相手からの要求に、難波は目を瞬かせたあと「馬鹿言え、、子どもじゃねえんだから」と渇いた笑いを落とす。しかし、目の前の女は好意を抱いた女で惚れた弱みとはこのことで「駄目?」と聞かれると、どうにも断れない。難波は言葉を詰まらせたあと、渋々を演じて手を伸ばす。…が、はたしてこのまま触って良いものか。難波は考え寸前のところで「ちょっと待て」と手を引くと、彼は自分の手を比較的綺麗な上着の内側で拭ってから、頭の上へと乗せた。右に滑らせて、左に滑らせて。頭を撫でるなんてそれだけである筈なのに、妙に落ち着かない気持ちになるのは緊張のせいだろうか。
難波は「おい、これでいいのか?」と落ち着かない様子で訊ねる。そもそも頭を撫でるって、どの程度撫でればいいのだ。一往復か、二往復か。しかし、頭を撫でられる彼女があんまりにも嬉しそうな顔をしているものだから、止めようにも止められず、難波の撫では紗栄子の「流石にもういいんじゃないの?」という止めが入るまで続いた。
■ハン
「頭……ですか」
突然の要求に、疑問を滲ませた言葉が落ちる。一体なぜそれを自分相手に要求するのか。ハンは合点がいかぬ様子で首を傾げたが、「今日嫌なことあってさぁ…ほら、触れあいってオキシトシン…幸福ホルモンが出るっていうじゃない?だからハン君に慰めてもらおうと思って」と××から補足を受けると、ハンは暫し悩むような素振りを見せた後、緩慢に腕を開いた。
「であれば頭を撫でるよりも、抱擁の方が良いのではありませんか?」
私と××さんの身長差を考えると、触れあう範囲もより大きいかと。そう加える言葉は天然由来の真面目さで、彼はいかに効率よく幸福ホルモンを出せるかを考えている。其処に男女という性別の違いだとか、そういった余計なものは無く、「いいの?」と訊ねるとハンは頷きを返し、そして胸の中にやってきた××を抱き留めた。―――が、その瞬間、ようやく我に返ったように思い出した細かいこと。そういえば、彼女は女性で、それから好意を抱いた相手で。けれども、今思い出したところであとの祭りだ。ハンは今更腕に回した手を離すことも出来ず「ハン君、どう?」とオキシトシンが出ているかを尋ねる××に「少し、恥ずかしいですね」と緊張を溢した。
■趙
「どしたの、なんか嫌なことでもあったの」
君がそんなおねだりをするなんて珍しいじゃない。尋ねる言葉は柔らかく、色眼鏡の奥にある瞳が心配を滲ませる。しかしまぁ、生きていれば言いたくない事も一つや二つあるかと趙。ゆえに彼がそれ以上の追求をする事は無く、頬を撫で、指先がするりと髪の内側に差し込まれて、親指がすりすりと地肌を撫でる。「いい子いい子」
「××ちゃんはさぁ、いっつもよく頑張ってるよ」
「……少なくとも、おれは××ちゃんが良く頑張ってるってわかってるつもりだから」
続く言葉はどこまでも優しく、穏やかで、決して世辞を言っているようには思えない。なんだかたまらなく泣きたくなって目頭の熱さに耐え切れずに涙を落とすと、彼はその様子に双眼を細めるように笑い「サービスしちゃおうかな」と額へと口付けて「趙さん印の花丸。……キミだけの、特別だよ」と囁いた。