これは一体どういうことだ。まさか白ひげ一家の幹部から物を受け取って報告もしていないなんてな。…あァ?あの日はみんなだってお菓子を受け取った?……オイ、あのガキ共が受け取ったものと、お前が受け取ったものが、全く同じと言えるのか?
チリンチリンと、弾む小さな鈴の音の鬱陶しさに飽き飽きし始めた頃。客間から聞こえる会話は重く、緊張感が走っていた。――パシン。乾いた音に続いて、謝罪の言葉と共に出てきたアネッタ。見ると彼女の頬は赤く腫れており、あれほど鬱陶しかった鈴の音は聞こえない。
ははぁ、スパンダムめ。随分と分かりやすい仕置きに走ったな。カクは心配するような顔で俯くアネッタに声を掛けると、そして動揺し、驚いた反応を見せた。
「ッアネッタ、その頬はどうしたんじゃ!」
「あ……」
分かりやすく瞳が揺れて、視線が逸れる。彼女は咄嗟に頬を隠そうと手を寄せるが、カクはそれを許さない。彼は彼女の手首を掴むと「アイツに殴られたのか」と零し扉を睨む素振りを見せるが、彼女はそこでまた騒ぎになるかもしれないと思ったようだ。彼女は「ちがうの!」と遮るように言い、それから視線を落とすと「ちがうの、私が悪いの」と小さく呟き、遅れて涙を落とした。
「……っぅ、く………キーホルダー、取られちゃった……」
小さく呟いた言葉。ああ、馬鹿な女だ。潜入捜査対象の相手から物を貰えば、――それも白ひげ一家で頭の切れると噂の幹部から物を貰えば、そこに何かが仕込まれている可能性だってあるだろうに。まぁ、あろうがなかろうが、それは規則違反だ。本来ならば上に提出すべきだった。だから彼女がスパンダムから厳しく叱られたのも正当な理由で、分かりやすく頬を叩いたのも躾の一種だろう。それをとやかく言う気はないし、それを裏で手を引いた自分が今更怒る理由もない。カクは彼女の手を引いて身を寄せると、ただ静かに囁いた。
「……お前がいくらアイツと仲良くなっても、所詮は極道の男じゃ。仲良しこよしなんて許されん」
「で、でもあの人はそんな悪い人じゃ」
「……アネッタ。いいか、悪くない極道なんておらん。あの男がいくらいい男であったとしても、犯罪者であることは変わりないし、極道に泣かされた一般市民だっておるはずじゃ」
「……、……」
「いいか、もう二度とあの男と会ってはいかん。……分かったな」
「……、…でも」
「アネッタ」
「……う、ん」
「いい子じゃ」
さて、これでまた一つ余計な縁が切れたであろうか。静かに涙を落とすアネッタは少々可哀そうにも思えるが、だからといって他所を向かれては困る。カクは彼女が落ち着くまで静かに胸を貸していた。アネッタもそれに甘えて頭を摺り寄せて、鉢合わせしたブルーノやルッチは呆れたように息を吐いていたが、彼らも記憶のある転生組だ。こういった光景はもう見飽きたと息を吐くだけで此方に近付く事もなく、何処かへと立ち去ってしまった。
カクはアネッタに向けて「部屋に戻るか、コンビニでも行くか?」と尋ねる。すると彼女のポニーテールがたふたふと揺れて、鼻を啜る音と共に小さな声が尋ねた。
「…っず、……おごりだったらいく……」
「ワハハ…現金なやつじゃのう。…そうじゃな、じゃあアイスなら買ってやってもええぞ」
その代わり、泣き止んだらな。言いながら瞳いっぱいに涙を溜める彼女の目尻を撫でる。全く相変わらず彼女は泣き虫で、そして自分は彼女に甘い。
金色の瞳が瞬き、笑みを落とす。
「……へへ、じゃあ一緒に行く」
そう零す言葉は、悲しみが和らいでいるように見える。そうして二人は一度水分補給してから外へと出たが、外は悲しむ間も与えないほど暑かった。季節はハロウィンあと。もうそろそろ涼しくなっても良い頃だが、まぁ、隣を歩く彼女が「アイス、アイス、なんにしようかな」と楽しそうに声を弾ませていたので、良しとしようか。