映画はまたあとで

 家で映画を見ようと誘われて、お菓子やジュースをたんまり買って帰宅したあとの事。ファミリーサイズのポテトチップスをパーティ開けしたところで、沈黙が増えた事に気が付いた。
 明らかに、主催者であるアネッタがぼんやりとしている。試しに頬に触れると暖かく、甘えたように身を寄せる様子は眠たい時の”それ”だ。

「眠いんか」

 尋ねると、彼女は言葉なく頷いた。

「……アレが近いのかもしれんのう」

 細かく把握しているわけではないが、彼女はその時期になると眠気が強くなる。夜は小学生と変わらない時間帯で眠り、起床も遅い。腹痛や腰痛といったそのほかの症状はあまり無いようだが、それでも三大欲求に抗う事は難しいようだ。
 身を寄せたまま、肩口にぐりぐりと頭を押し付けられる。
 呟かれた言葉は、悔しさや申し訳なさが滲んでいる。

「でも、映画見るって言ったし、映画見たい」

 約束もしたし、自分としても映画を見たい。――けれども体や意識が追い付かない。その証拠に寄せられた頭は張り付いたように離れず、彼女の背中に腕を回して背中を叩いてやると「眠くなっちゃうからやめてよぉ……」と力ない答えが返ってくる。
 カクは笑い、近くにある大きなビーズクッションに共に倒れこむと、ついでに近くに置いてあるブランケットをかけてやった。

「……少し仮眠すりゃあええ、わしも寝る」
「でも……」
「少しの仮眠じゃ、あとで見ればええ。……眠気が収まったらな」

 どうせいま映画を見たところで十二分愉しむ事は出来ない。
 ならば、もう少し万全な時に見た方が良いに決まっている。
 カクは眠たげに瞬く様子に、目元に掛かる前髪を横に流してキスを贈る。アネッタはそれに瞼を閉じて受け止めていたが――微睡む彼女には良い眠気促進になったようだ。手招く眠気を振り払うことも出来ず、彼女はそのまま深い眠りへ。
 スウスウと。スウスウと。小さな寝息が穏やかに続く。
 カクはそれを飽きずに眺めていたが、そういえばポテトチップスをパーティ開けしたばかりだ。怠い体を起こして、つまみ食いで一、二枚食べながら湿気防止にジップロックへと移し、汗をかいたペットボトル系を冷蔵庫へとしまうと、灯りを落として彼女の隣で瞼を閉じた。

 ……しかし、まさかそのまま朝まで寝てしまうとは思いもしなかった。
 遠くで聞こえる小鳥たちのさえずりに、締めきったカーテンから差し込む柔らかい光。枕元に置いた携帯を見ると、時刻は八時半。どう考えても寝すぎだ。
 二人して茫然とする中、アネッタが言った。

「……喫茶店に行って、ちょっといい朝ご飯でも食べちゃう?」

 駅前の、ホットケーキが美味しいところ。……まぁ、当初の目的とはだいぶ変わっちゃうけど。
 そう続ける彼女は肩を竦める。仕方ないけど、たまにはこういうことも楽しいかもしれない。そんなことを言いたそうな声色で。

「そうじゃのう、いまの期間限定はなんじゃったか」
「あ!確かバナナパンケーキだった気がする!」
「おお、そりゃあええのう。じゃあ、準備したら行くか?」

 言いながらも、彼女の肩を掴んでもう一度押し倒す。

「……それとも、少し遊んでから行くか」

 これはちょっとした悪戯であり、お誘いだった。
 なんせ昨日はただ眠っただけで、今日は一日休み。であればこういった選択肢もあるはずだと――そういった考えだったのだが、彼女はどこまでもマイペースであった。瞬くだけで、狼狽えて顔を赤らめるわけでもなく「今すぐいく!お腹すいたもん!」とニッコリ笑顔で言うので、これだから色気の無い奴はと息を吐き出した。