マウントでもなく、自慢でもなく、胸の発育が良すぎて困っている。
胸の発育が良すぎて困る事、それはブラがすぐに合わなくなる事だ。
いや、勿論、胸が大きいことによって肩こりが酷いとか、夏の間は蒸れが酷いとか、単純に視線がきついとか、そういう細かいことはあるのだけれど、この養護施設内で一番困ることはブラのサイズ問題だ。
なんせこの養護施設は、政府管轄だというのにお金がない。洋服だって基本的にはおさがりだし、お小遣いだってまだ子供だからという理由で殆どもらえていない。それにより、私がいま使用している下着も少ないお小遣いを溜めて買ったものなのだが、よりにもよってノンワイヤーではなくワイヤー入りを買っていたので、それがぎちぎちと食い込んで痛いし、何よりも苦しい。
あまりの息苦しさと痛みに、少し前に、施設長や先生にサイズが合っていないこと、それとそれにより体調不良になっていることを理由に購入をお願いをしてみたのだが、理解がないのか、それとも単純にケチなのか、もうすでに何着かあるから良いだろうといって、あっさりと断られてしまった。まぁ確かに、お願いをした施設長や先生は、政府から受けている援助金をポッケナイナイしているのでは。と疑いを向けられるぐらい良い噂がないから、買って貰えるとは思ってなかったけど、それでも、これから先、少なくとも高校卒業まではこの息づらさと共に生きていくのかと思うと、とても憂鬱な気分になってしまう。
「………はぁ」
「うん?どうしたんじゃ、箸が進んでおらんぞ。」
食事中、隣に座るカクが目の前に置かれた肉じゃがをじいっと見た後、「頂きっ」と比較的大きなじゃがいもを攫う。普段の私だったら「ちょっとお!」なんていって怒るのだが、息苦しさから食欲のない私は、怒る気にもならずに箸を置くと、肉じゃががこんもりと残っている皿を彼の方へと寄せて、「あげる」といった。
これにはカクも、それからジャブラやルッチ、ブルーノ、フクロウ、その他諸々の子供たちも、あのアネッタが?!と言わんばかりな顔で此方を見る。いや、めちゃくちゃ失礼だなこの人たち。私の事食いしん坊だと思っていらっしゃる?
とはいえ、彼らに向けて、いやぁブラがきつくって食べられないんだよね。なんて説明するわけにもいかないので、突き刺さる視線を全て無視して立ちあがったのだが、これがよくなかった。ブラでぎゅうぎゅうに体を締め付けられているなか、急に立ち上がったものだから、目の前がぐわんと歪んで、あ、立ち眩みだ。とそう思った頃には全身の体が抜けて、後ろに倒れてしまったのだ。
「っアネ!!」
幸い、倒れた先にはカクがいたので、受け止めてくれたので大きなけがはなかったが。
カクは突然の出来事に酷く動揺していた。顔を覗き込みながら「どうしたんじゃ、アネッタ、立ち眩みか?!」と心配そうに問いかける。
「あは……ごめんごめん、びっ……っくりしたぁ」
心配しなくていいと言いたかったが、くらくらとする感覚は消えることなく起き上がることも出来ない私は、カクに受け止められたまま、ぼんやりと天井を眺めてどうしたものかと考える。その間も、カクはもちろんのこと、一緒に食事をしていたルッチたちもこちらに目を向けていて、施設長と先生だけが此方に目もくれず何かを話しているようだった。
「………こら、何を考えておる」
目の動きに気付いたカクが、怪訝そうな目を向けて問いかける。
「ん?」
「…まーた隠し事か?」
「……隠し事じゃないんだけど、ええと、言いづらいというか。」
カクはその言葉に数度しぱしぱと瞬きを繰り返す。
それから少しばかり視線を上に上げたのち、もう一度視線を私に向けたカクは、自分の耳元をとんとんと人差し指で叩く。こそこそ話ならいいじゃろって事なんだと思う。まぁ確かに、どうせ、いつかは言わなければいけない事だ。
さすがに大声で、私のブラがさぁ!!買ってもらえなくてさぁ!!なんて言えはしないが、相手がカクなのであれば――。
そうして少しばかり屈んで耳を寄せる彼に向けて、ひそひそと声の音量を落して下着のことを伝えると、恐らくは予想だにしていなかった話題だったのだろう。カクの体がビクンと大きく脈打つように跳ねて、その瞬間、彼の顔が熱湯を被ったように真っ赤になった。
「………そ、そうか」
カクの気まずそうな言葉ったらもう。
それがあんまりにもいい反応で、私相手に顔を真っ赤にするなんて珍しいものだから、彼にだけ聞こえるような音量で「…外す?」と言ってみたところ、額にチョップが振り下ろされてしまった。
全く、なんて男だ。私は立ち眩みを起こしたばっかりなのに。
その数日後。施設長と数人の先生がポッケナイナイ罪でクビになったらしいが、はてさて一体誰の仕業なのやら。まぁ、私は新しい下着をたくさん手に入れられて快適ハッピーなので別に誰が犯人でもいいのだけれど、とりあえずカクと年長者たちには何かアイスでも奢ってあげようと思う。