彼女はやきもち焼き

「カクなんてもう知らない!」

 宝の守護者と呼ばれる竜は、野心がない代わりに執着的な性格を持っている。
 それは竜の心臓を持つ彼女も例に漏れず。こちらが求める愛情を抱いてもいないくせに、やけに嫉妬の感情をみせる。それも一丁前な嫉妬はタチが悪く、無自覚ときたものだ。
 まるで奥歯が疼くとでも言いたげに、なんだか理由もなく腹が立つのだと主張するアネッタ。彼女はズルリと伸ばした尻尾で硬い地面を叩き、呆れ気味のジャブラが訊ねた。

「……面倒くせぇなぁオイ。なにが不満だって?」
「だってカクってば酷いんだよ!つるつるの尻尾持ちのことを見てたんだもん!」
「はぁ、それが一体なんだってそんな怒るんだよ」
「やらしいっていってるの!」

 子供のような癇癪に、面倒くせえとお手上げのジャブラがグラスに酒を注ぐ。それをカパカパと飲み干す彼女の良いは凄まじいほどに早く、先ほどまであんなにキャンキャンといった言葉がフワフワと浮き出した。
 潰れ間際。呂律の回らない言葉が続く。

「らからぁ……つうつうのひっぽがぁ……」

 真っ赤な顔でシパシパと重たく瞬きを繰り返す。ヒックと酩酊によるしゃっくりをあげるアネッタは、もうまともな言葉を紡げる様子にはない。それどころか重たい頭はゆらゆらと揺れ始め、何かを察したようにジャブラがグラスを取り上げた瞬間。電池が切れたようにわしの方へと体を倒した。

「おうおう、今日は随分とまぁひでえ酔いだったな」
「よよォい!色男ってのァ、苦労するゥ~なァ~」
「……そうやって、わしを茶化すのはよさんか」

 ジャブラがいって、クマドリがカンラカンラと笑う。桃色の長い髪を揺らすクマドリは、器用に髪の毛で自分の上着を持ちあげてからアネッタにかける。それにすっぽりとそれに収まったアネッタは猫のように身を丸めており、頬を太ももへと摺り寄せる。

「うぇひ……」

 それが可愛いと言えたら良いのだが、彼女の涎で太ももがヒンヤリとしている。世話の焼ける女だと胸に差し込んだハンカチを取って、濡れた口元に押し付けた。

「んんんん……」

 少しだけ不満げな声。嫌そうに手が彷徨った後、また力なくパタンと倒れるあたりその眠りは深い。また小さく寝息を立て始めると、彼女の尻尾が僅かに揺らめいてわしの足首へと絡んだ。

「それで?浮気でもしたのかよ」
「いやぁ、浮気も何も、触れてもおらん」
「そうじゃなくて、よその女に鼻の下を伸ばしたかって聞いてんだよ」

 ニヤニヤと下世話に笑うジャブラの顔ときたら。腹立たしい気持ちを酒と一緒に飲み込んで、一つ息を吐き出しても不快な思いは残る。彼女が怒りを向けていた“ツルツルの尻尾持ち”を思い出しながら呟いた。

「鼻の下なんか伸ばすわけないじゃろ。……ただ、コイツの尻尾とはまるで違うなと思っただけじゃ」
「ア・そいつァ、お天道様も認める下心ォってェやつじゃあ、ねぇ~のかぁ~?」
「下心ぉ?まさか、尻尾のことしか覚えとらん」

 どんな髪色で、どんな服装だったか。任務での出来事じゃあるまいし、いちいちそんなことを覚えてはいない。覚える気もない。ただ、頭にあるのはその女がズルリと伸ばしていた尻尾だけ。それを見たのだって、尻尾にとりつけたピアスなどの装飾品が珍しく思えたからで──彼女が言う”やらしさ”なんてものはない。

「なのに、どうしてあんなに怒るのやら」

 息を吐き出すと、クマドリはまたカンラカンラと機嫌よく笑った。

「そりゃア、惚れた男が他の女に現を抜かせばキイと喚くのもォ、仕方ねェ~なァ~」
「惚れた男?」
「ほかにだれがいんだァ?」
「……わはは、まさか」

 だって、どうせこの女は”友愛”だとか”兄妹愛、家族愛”みたいなものしか持っちゃいない。ああやって喚いていたのだって、兄や友人を獲られたくないという想いはあっても、根源にあるものはわしが求める愛情ではないはず。頭を撫でたときに感じるフワフワとした柔らかさと、ふにゃふにゃと気持ちよさそうに眠る彼女に瞳が細くなる。
 それからの話は、彼女に聞かせられないような話のオンパレードであった。しかし、不思議なことに頭のなかにはクマドリの言った単語一つが残り続け、少しだけ傾いた気持ちは心地よくなった。