だらだら

「それで?一体何をしているんだ」
「見てのとおり、髪を結んでるよー」
「頼んだ覚えはないんだが」
「暑そうだったからね、ちょっとした気遣いです」
「そりゃあどうも」

 ヨセフと共に囲碁を打つマハの後ろで、もさもさと草が生い茂るように跳ねた髪を櫛で梳く。大柄な彼の髪はとびきり癖が強い。櫛で梳いても、梳いた傍からピンと外に跳ねて真っ直ぐに降りることはなく、ウウムと思案顔を一つ浮かべたアネッタは、彼の髪を一つにまとめて、ブレスレットほどの大きさの髪ゴムで留めてみる。多少なりとも首元がすっきりとしたことで、マハは「ああ、これは首元が涼しいな」と機嫌よく言っていたが、結ぶからにはアレンジもしたいところ。

 なんせ結んだところで、髪は好き放題に跳ねていて、なんというか竹箒のようになっている。
 その状態でマハが動くと、ごわごわした髪は頬を掠めてこそばゆく、「マハ動かないでよぉ」と言うと、マハは白々しく肩を竦めて「無茶を言う」と呟いた。

「んー……オシャマハにするにはどうしたもんか……」
「…オシャマハ……」
「アネッタ、妙な名前はよしてくれ」
「え~?」

 聞いているんだか、聞いていないんだか。いいや、きっと聞いちゃいない。アネッタは一つにまとめた髪ゴムを外して、今度はお団子ポニーテールで留めると、ゴムを隠すようにスカーフをゆったりと巻いて結んでいた。

「お、いい感じじゃない?どう、ヨセフ」
「あぁ、華やかだ」
「ね~、ヨセフのひらひらみたいで華やかよね」
「ヨセフのあれは華やかだったのか」
「華やかでしょう」

 パチン、パチン。囲碁を打つ音と、和やかな会話は続く。 

 その会話はあまりにも緩いものであったが、どうせ今日は待機日で仕事はない。まぁ、こんな日があっても良いだろう。

「アネッタ、おいで」

 ヨセフが零す。アネッタは言われるがままに向かいに座るヨセフの方へと近付くと、彼は囲碁盤を見せて「これをどう見る?」と尋ねたが、お生憎様、囲碁は得意ではないし、ましてや碁石を見て戦術・戦略を読み解く事も得意ではない。思わずアネッタは口を噤むが、面を被ったヨセフの顔色は変わらない。くそう、こんな時にカクがいたら。そんなことを思いながらマハに助けを求めるように視線を向けたが、マハは肩をゆらゆらと揺らすだけで「少しは自分の頭で考えてみるんだな」と呟いた。