同僚

「おーつかれーぃ」

 ぽつりぽつりと雑居ビルの灯りも消える二十三時頃、油染みが多く長年の煙草で壁紙が黄色くなったような小汚いラーメン屋で、ラーメンを啜る恰幅の良い男たちに声を掛ける。

 一人は同僚で、一人は後輩。その中でも同僚・渡辺基祐の隣にある席を引いて腰を掛けて「おじさん、醤油ラーメンとギョウザ、あとレタスチャーハンね」と注文をしたが、隣でラーメンを啜る同僚は呆れた様子を見せる。

「相変わらずよく食うな……」

 隣に座る後輩も「〇〇さん、食べられます?」と訊ねてきたが、なんとも余計なお世話である。〇〇は手首に通した、飾り気のないゴムで髪を一つにまとめながら問いかける。

「それで?アンタたち最近どうなのよ、な~んか頑張ってるらしいじゃない」
「おかげ様で」
「なんか面白い人がいるんでしょ?神保町にある八神探偵事務所の八神と海藤……だっけ?」
「……そこまで掴んでんのか、相変わらず地獄耳だなオイ」
「お褒め頂きどうも」
「褒めてねぇよ」

 呆れ混じりの声を耳に、「あいよ、餃子だよ」と差し出された餃子を受け取るが、提供されるまでが早すぎる。湯気が経っていないあたり、作り置き分を出されてしまったかと息を落としたが、ふと視界の端から箸が伸びて餃子二つを取っていく。不思議に思い隣を見ると、渡辺が怪訝そうな顔を向けながら奪っていった餃子を小皿にあるタレにつけており「なんだよ、お前いつも冷えた餃子は好きじゃないとかいっておれに寄越すだろ」と言ってきたが、そういうものは「食べていいよ」と言ってからだろうに。

「渡辺さぁ、そういうとこ女に嫌われると思うよ」
「あぁ?」

 わけわからんって顔の渡辺。隣にいる桜井もうんうんと頷いていたが、確かに冷えた餃子はあまり好きではない。そこで可愛い後輩にも「桜井にもあげる~」といって押し付けようかと思ったが、普通に断られたし、隣の渡辺が邪魔すぎて押し付けることは出来なかった。

「……それで、今日はどうしたんだよ」
「うん?」
「お前が此処に来るときは大抵何かあったんだろ」
「あー……」

 言葉を濁らせる。これだから同僚ってやつは。神奈川県警では数少ない同僚の渡辺。気付けば同僚と言える者は渡辺しか居なかったが、居ないよりかは何倍もマシで、今度こそ作り立てのラーメンとチャーハンを順に受け取って手元に置きながら「昇格試験、落ちちゃったんだよねぇ」と呟いた。

「あれ、〇〇さん昇格試験受けてたんですか?」
「受けてたよ~、しかも点数は合格してたんだけどさぁ」
「あぁ?じゃあなんで受かってないんだよ」
「そりゃあお上の事情ってことでしょ」
「はぁ?」
「っそんなのあんまりじゃないですか!」

 意を唱える渡辺と桜井。直属の上司たちからは、仕方の無いことだと諭されたというのに随分と優しいものだ。それがなんだか嬉しくて、途端にお腹がこそばゆくなり、それを誤魔化すように割り箸を取ってパキンと割って、ラーメンを啜る。ついでに「渡辺よりも昇格して、コキ使ってやろうと思ったのに」と呟くと「庇おうとした俺が馬鹿だった」と渡辺は呆れたように言い、それから桜井までもが「〇〇さんが俺の上司にならなくて良かった…」と安堵をしていた。全く酷いやつらめ。