泣いちゃう日もあるよね

  何故だか分からないけど、たまらなく泣きたくなって、涙が止まらないことがある。それが何故だか分からない。一度大人たちに連れられてお医者さんに診てもらったことはあったが、感情豊かだと言われるだけではっきりとした原因が分かることはなく、私が突然泣き出すたびにカクは心配そうな顔をしていたっけ。

  額に彼の唇が触れる。ふに、と柔らかな感触に温もり。それから少しだけの驚きと気恥ずかしさ。いつだって彼のキスは突然で、ぼろぼろと涙を流す瞳を瞬かせながらカクを見つめると、カクもまた少し気恥ずかしそうに帽子の鍔を下げると「涙は止まったか」と口角を吊り上げる。それがなんだかとても安心して、カクの胸板に額を預けて、そのまま手持ち無沙汰の手を腰に回してみる。彼の体は暖かくて、遠くで響く心臓がどくどくと早い。

  けれど、やっぱり彼を抱きしめていると私の悲しいという感情は剥がれて、吐息となって落ちていくのだ。

「……少しだけ、このままでいてもいい?」
「おお、構わんぞ」
「……へへ……」
「まぁ、鼻水はやめてもらいたいが」
「そ、それは昔の話でしょお……」

 彼の穏やかな声が好きだ。
 穏やかなひと時が好きだ。
 しかし、それを今この場で口にするには恥ずかしくて、私は熱を帯びる顔を胸板に押し付けたまま、「アネッタ。髪飾りが刺さって…ちと痛いのう」とクレームを零すカクに「我慢して」と言ったけれど、彼はやっぱり突き放すこともなく小さく吐息を溢して「我儘じゃのー」と呟いていた。